研究実績の概要 |
エアロゾルデポジション(AD)法は,アルゴンや窒素等のキャリアガスと混合してエアロゾル化した微粒子を音速程度に加速し,基材(金属,セラミックス等)に噴射した際に生じる衝撃固化現象を利用して膜形成を行う手法であり,原理上,原料と同一組成・結晶構造の多結晶膜を常温で成膜できる特徴がある。本研究では,AD法を用いて高いリチウムイオン伝導性を有する酸化物固体電解質薄膜を作製することを目標としている。 平成27年度は,ガーネット構造酸化物固体電解質Li7La3Zr2O12(LLZ)に着目し,平均粒径2.5μm程度の立方晶LLZ粉末および正方晶LLZ粉末を用いて,AD法によりLLZ膜の作製を試みた。立方晶LLZ粉末を用いた場合,膜試料の主相は立方晶相であったが,原料粉末と比較して膜化後に格子定数が増加することを確認した。加えて,Li2CO3やLi2ZrO3, La2Zr2O7といった異相生成が見られた。一方,正方晶LLZ粉末を用いた場合,膜試料の主相が正方晶相ではなく立方晶相に変化することに加えて,立方晶粉末を用いた場合と同様な異相生成が見られた。正方晶~立方晶へのLLZの相転移には,数100℃の温度下におけるCO2との反応が関与していることが先行研究により指摘されており,膜化後の結晶構造変化や異相生成は,成膜時にLLZ粉末が基板衝突した際の温度上昇とCO2との反応によるものと推察される。得られたLLZ膜の27℃での伝導率を評価した結果,2.4x10-6 S/cmと焼結体よりも二桁程度低い値であった。 LLZよりも伝導率は低いが立方晶構造がより安定なLi6BaLa2Ta2O12(LBLT)を用いて膜化した結果,Li2CO3の生成は見られたもののの,LLZのような結晶構造変化やZrを含む異相生成は見られなかった。得られたLBLT膜の伝導率は27℃にて0.8x10-6 S/cmであった。
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