研究課題/領域番号 |
26630138
|
研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
長田 貴弘 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (10421439)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 強誘電体 / 表面電荷 / 焦電性 / 電荷蓄積 / π電子制御 / 光電効果 |
研究実績の概要 |
本研究の基本構造であるグラフェン/(LiNbO3, 以下LN)構造の基礎物性の検討を中心に以下の項目を実施した。 1)表面電荷がπ電子導電性に及ぼす影響 グラフェンの電気特性がLN表面電荷と極性で制御可能でありセンサー素子応用へ可能性を見いだした。LN基板に単層グラフェンを転写した試料の抵抗率の温度依存性、光照射依存性の検討を行った。基板表面処理、電極構造の最適化により、室温から400℃までの温度変化に対して二桁の抵抗率変化を実現した。また、分極方向の異なる面において大きな抵抗変化が確認された。π電子系材料/極性酸化物界面の電子状態評価は、分極がπ電子の電子分布に影響を及ぼし+極性面において電子が強く局在化している可能性を示唆しており、電子の局在によって+極性面では高抵抗化が生じていると考えられる。また抵抗率の温度変化は焦電性に依存していることも確認され、温度検出センサーへの応用が可能である。さらに光誘起によっても表面電荷が変化することを確認しており、一つの素子で熱と光によるマルチセンシングの可能性も有している。 2)電荷蓄積効率向上のために界面構造理解 スクリーン電荷の極性反転制御と試料構造制御による電荷蓄積に成功し、絶縁膜を挿入することで効果の増強を実現した。LNの焦電性によって生じるスクリーン電荷の蓄積を周期構造と誘電体薄膜とのヘテロ構造形成により試みた。表面電位の温度依存性評価を本研究費により導入した温度ステージを用いたケルビンプローブフォース顕微鏡(KFM)で行った。温度の上昇とともにLNの焦電特性によって表面ポテンシャルの減少が確認されAl電極の場合70℃において150mV程度の表面ポテンシャルの変化が確認された。また金属仕事関数と誘電体層を組み替えることで蓄積される電荷の制御の可能性を見いだした。この結果は、酸化物表面電荷の回収の可能性を示唆する結果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度の研究の目的で重視したのは以下の二点である(1)表面電荷がπ電子に及ぼす影響を理解する。(2)電荷の蓄積を増強するために蓄積機構を理解する。 (1)については光電子分光による電子構造の解析から、バンドオフセット構造を解析し、表面電荷・分極に依存するπ電子の振る舞いを明らかにした。分極構造がπ電子に及ぼす影響については、異なる材料の組合せでは有るがペンタセン/酸化亜鉛のヘテロ構造においてもπ電子の局在化と空乏化を確認しており、分極構造によってπ電子が制御可能であることを証明した。以上から、表面電荷と分極構造によってπ電子が制御可能であること示し、27年度の研究へと繋がる成果であった。 (2)については、金属/LN界面のバンドオフセットを解析することで金属/LN界面でのショットキー界面の形成が重要であることを確認した。また界面酸化による界面特性の劣化が確認されたことに対し、計画の(3) 酸化物薄膜層挿入によるフェルミ位置制御による蓄積電荷の高密度化の検討を前倒しで実施し、誘電体薄膜(酸化シリコン)の挿入によって電荷蓄積の増強に成功した。以上から目的を達成したと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、計画の1)表面電荷がπ電子導電性に及ぼす影響に関しては、グラフェン/LN構造の最適化によって表面電荷のπ電子の局在・空乏化の増強と機構の理解を試みる。バンドアライメントの評価から酸化物の表面電位・分極構造は、界面のバンド構造において電圧印加と同様の効果があり、グラフェンのπ電子構造及ぼす影響を明確にするために多層グラフェンでの試料作成と評価を行う。これは、多層グラフェンに電圧を印加することでグラフェンにバンドギャップが形成されることが知られており、分極・表面電荷で同等の効果が確認されれば、静状態で電気が流れないノーマリーオフの素子が作製可能であることをしめしており、グラフェン素子の欠点を補うことができる。この構造を光電子分光と電気計測によって評価する。 さらにこれまでの成果を基に4) 環境エネルギーで動作する独立型センサー素子の試作についても取り組む。まずはπ電子材料/LN構造での光、熱センシングに関する基礎的な電気計測を実施し、焦電係数、光電係数などのLNのバルク物性値と比較検討を行い、分極と、焦電性、光電効果を分離した定量評価を試みる。これによって必要な電荷量を見積り素子の設計を行うことを27年度の目標とする。
|