研究課題/領域番号 |
26630140
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
山下 将嗣 独立行政法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, 研究員 (10360661)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | テラヘルツ電磁波 / 分光エリプソメトリ / 導電性高分子 / キャリア輸送特性 / 非破壊評価 |
研究実績の概要 |
本研究では、テラヘルツ時間領域分光エリプソメトリ(THz-TDSE)を用いた多入射角度・偏光分光測定による導電性高分子poly(3,4 ethylenedioxythiophene):poly (styrensulfonate) (PEDOT:PSS)薄膜のキャリア伝導解析を行う。PEDOT:PSSは透明電極や熱電素子、有機ELや有機太陽電池などのさまざまな応用が期待されているが、そのキャリア輸送機構は十分に解明されていない。本研究によって、キャリア輸送機構を解明しその輸送特性を非破壊で評価することは、これらのデバイスの性能向上・長寿命化を図る上でも重要である。 H26年度は入射角可変THz時間領域分光エリプソメトリの構築を行った。フェムト秒レーザ(現有 パルス幅10fs以下)を励起光源として、非線形光学結晶GaP及びGaSeをTHz発生素子、転写型低温成長GaAs光伝導素子(ELT-PCA)をTHz検出素子に用いた。さらに試料へのTHz光集光放物面鏡及び光学系に配置した偏光子に自動回転ステージ、入射角の変化に伴う光路変化を補正するために検出系全体を制御する自動ステージを導入し、これらをコンピュータ制御することにより、試料への入射角度可変なTHz-TDSEの構築を行った。さらに、光学特性が既知の試料を測定し得られたデータをデータベースと比較することにより分光測定精度の評価を行った。 PEDOT:PSSの異方的キャリア輸送を解析するために、光学異方性試料や多層膜試料を解析するためのアルゴリズム及びプログラム構築を行った。光学異方性や多層膜試料からの反射特性の計算し、数値計算により反射特性を満たす光学定数の最適解を求めることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既存のTHz-TDSE装置に改良を加えることにより0.3~30 THzの超広帯域なスペクトル領域において、多入射角での分光エリプソメトリ測定が可能なTHz-TDSEの構築に成功しており当初予定通りである。一方で、THz-TDSE測定データから導電性高分子の異方的キャリア輸送特性を解析する手法については、予定より少し遅れている。光学異方性単層膜及び等方性多層膜の解析方法については目途が立ったが、異方性多層膜の解析についてまだアルゴリズム構築を進める。導電性高分子PEDOT:PSS膜の反射スペクトルをどのような構造モデルで解析するかはさらに詳細な検討が必要と考えている。一方、THz透過及び赤外-紫外反射分光スペクトルから、PEDOT:PSS薄膜の面内光学伝導度スペクトルの温度依存性を求めることに成功し、高導電性膜の面内光学伝導度については弱局在を考慮したDrudeモデルで説明できることを明らかにした。この点については当初の予定以上の成果といえる。以上のことから、全体としては、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、構築したシステム及び解析手法の有効性を評価した後、導電性高分子PEDOT:PSS薄膜の異方的キャリア輸送特性解析を行いキャリア輸送機構について検証する。開発した分光システムの有効性評価については、水晶や導電性の異なる高分子膜による多層構造の光学特性を決定し、その測定精度を評価することによって行う。配向性及び結晶性を変化させたPEDOT:PSS薄膜試料を準備し、その異方性キャリア輸送特性を測定する。面内異方性及び膜厚方向の光学伝導度異方性を定量的に評価し、キャリア輸送機構に関する知見を得る。さらに解析を発展させて、本手法で得られる情報量を最大限に活用して、PEDOT:PSSを導電性PEDOTと絶縁性PSSで構成される複合構造とみなした解析を試み、キャリア輸送特性と構造の関係、高導電性発現機構の解明に向けた新たな知見を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
THz時間領域分光エリプソメトリの改良に伴う光学部品及び自動回転ステージについて新規に購入せず、他の光学実験系で用いていた部品を流用することによって対応した結果、物品費が大幅に削減され、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、構築したシステムの性能評価と試料の測定・解析を行う予定であり、次年度 使用額は、システムの性能向上のための光学部品費として用いる予定である。
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