研究課題/領域番号 |
26630141
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高橋 庸夫 北海道大学, 情報科学研究科, 教授 (90374610)
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研究分担者 |
有田 正志 北海道大学, 情報科学研究科, 准教授 (20222755)
森江 隆 九州工業大学, 生命体工学研究科(研究院), 教授 (20294530)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 抵抗変化メモリ / 多値メモリ / アナログメモリ / 不揮発性機能デバイス / ニューラル素子 / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
超省電力で冗長性を有する集積化論理回路の構築を目指して、抵抗変化メモリ(ReRAM)の新たな機能応用が可能な、3端子構成の新型不揮発性機能デバイスを提案し、これを実現することを目指した。 ReRAM材料としてMoOxを用い、まず2端子の抵抗変化メモリ特性を評価した。その結果、ReRAM素子は応答速度が速く、且つ抵抗の変化率が大きいため、素子の付近に浮遊容量(配線や電極の浮遊容量が必ず存在する)が大きいと、抵抗スイッチ時に大きな電流が流れ、正しい特性が評価できないことが判明した。確度の高いシャープな特性を得るためには、ReRAM素子の直近に電流制限用素子を配置する必要があり、研究分担者である九州工業大学の森江教授の協力を得て、ReRAMの下層に電流制限用のMOSFETを埋め込んだ構造を実現した。MOSFETのゲートに印加する電圧により、ReRAMに流れる電流が制限され、オーバーシューなどが生じないように電流を精度良く制御することで、まだ不十分ではあるが、ある程度のアナログメモリとしての動作を示すことが判明した。 上記と並行して、動作原理を明確にするために検討予定の、透過型電子顕微鏡(TEM)内での評価装置の準備を行った。TEM内で、多端子のReRAMデバイスの動作評価が必要になることから、これに対応するTEM用のホルダーを含む測定ステムを構築した。本システムでは、16端子の測定端子を実現しており、このような多端子の特性評価が可能なTEMその場観察システムは世界中でどこでも実現されていない。作成したシステムに、ReRAMの電極として用いる予定の銅(Cu)細線を16端子分取り付けたTEM観察用基板を試作し、実際に、I-V特性評価が可能なことを確認した。電流を流すことでエレクトロマイグレーションが生じ、細線が断線することによりナノギャップが形成される様子を評価することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(理由)目的である、抵抗変化メモリ(ReRAM)のアナログに近い多値メモリ動作を実現することができたことに加え、動作原理解明の鍵となる、世界中のどこにもなかった多端子(16端子)のデバイスをTEMその場観察が可能なシステムを構築できたことによる。 ReRAMの多値メモリ動作は、ReRAM素子の直下にMOSFETを埋め込み、これにより、浮遊容量の影響を受けることなく電流を精度良く制御できることが重要である。これは、ReRAMの抵抗スイッチ速度が速い上に、抵抗変化率が大きいため、スイッチと同時に浮遊容量に蓄積された電荷がReRAMに流れ込むためである。すなわち、高性能なReRAMでは、余計に問題になるということである。実際、MOSFET搭載素子では特性が評価できるにもかかわらず、同じデザインルールで作製したMOSFET無しのReRAM素子では、抵抗スイッチと同時に破壊されてしまうことが確認された。研究分担者の協力を得て、この問題を解決し、ナノ秒台での応答と、電流制限による多値のメモリ特性を確認できたものである。 16端子のTEM内評価システムでは、(100)Siウエハ上に形成した25-100nm厚のSiNメンブレンを裏面からのアルカリエッチにより選択的に形成し、そのメンブレン上にデバイスを形成することで、TEM内で評価できるようにするものである。接点電極パターンの配置とTEM側のホルダーを工夫し、ワンタッチで16端子を装着可能なシステムとした。このため、素子を破壊することなく簡便に取り付けて評価することができる。実際、電子ビーム露光で作製したCu細線のTEM内でのエレクトロマイグレーションの評価に成功したことで、動作の確認ができている。
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今後の研究の推進方策 |
ReRAMデバイスのアナログメモリとしての特性向上のための材料の開拓と、サイドゲートを取り付けた新構成デバイスの開拓を進めると共に、TEM内での動作特性評価を進める。 ReRAM材料としては、MoOxに加え、WOxやTaOxを用いた構成、並びに、2層絶縁膜構成のReRAMとして、AlOx層を下層に配した構造のデバイスについて検討し、アナログメモリとしての特性向上を目指す。材料探索では、MOSFETを配置しないデバイスを用いて短時間で検討を進め、材料を絞った後、昨年度と同様に、下層にMOSFETを挿入したデバイスを用いてアナログメモリ動作や、パルスニューロン動作を目指したパルス書き込みによるアナログメモリ動作の検討を進め、ニューラルネットワークシステムの構築を目指す。加えて、リソグラフィーと薄膜形成技術を用いて、ReRAMにサイドゲートを取り付けるプロセスを立ち上げ、3端子デバイスとしての動作確認を目指す。この際、後述する、TEM内での動作原理確認の結果を参考に、並行して検討する。 TEM内でのReRAM動作の評価としては、構築した16端子のパターンを活用し、電子ビーム露光を用いてCu配線やCuギャップ電極をSiNメンブレン上に作製し、その上に、MoOxやWOxなどのReRAM材料を形成し、TEM内での電気的特性を評価する。電極形状やReRAM材料を工夫し、抵抗変化現象に伴う構造変化を観察し、動作原理を明確化すると共に、これを応用した新原理デバイスの構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、国際会議に積極的に投稿することを計画していたが、当該分野のナノエレクトロニクスに関する比較的大きな国際会議(The 6th IEEE International Nanoelectronics Conference)が北海道大学で開催された。招待講演2件を含む12件の発表(発表者はそれぞれ異なる)を行ったが、通常必要となる出張経費(一人当たり、5万円程度)が不要となった。また、関連分野の大きな国内会議(参加者6000人)も北海道大学で開催されたため、これに関する出張経費も不要となった。これらの事情により、計画上必要と考えていた出張費の旅費が60万円から70万円軽減された。このため、比較的大きな経費が繰越されることになった。これに加え、研究遂行上の電気部品や装置の消耗品類などの支出も、装置がたまたま故障無く動作したため、出費を抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、同様に積極的に国際会議などでの発表を継続していく予定であり、国外の会議での発表も含まれるので、旅費の出費が大きくなる予定である。また、今回提案の抵抗変化メモリの開拓に向けて、新たな材料の検討が必要となることから、その材料費や作成プロセスの構築に向けての経費が必要となる。また、作成されたデバイスの評価のために、測定装置を整備する必要があることが判明したため、主に消耗品を購入し、整備していく。以上の計画で、繰越した経費を用いて、研究を遂行していく予定である。
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