本研究の目的は,大規模集積回路(VLSI)を構成する微細トランジスタにおいて,単一の不純物あるいは電荷の存在がトランジスタの「統計的」特性に与える影響を実験的に調べるための挑戦的基礎研究を行うことである.多数の不純物を有するトランジスタの特性は正規分布に従ってばらつき,回路設計にも反映されている.ところが,不純物数が極端に減る将来の極微細トランジスタでは,たった一個の電荷により特性が大きく変化することが予想される.VLSIの歩留や性能は,トランジスタの平均的特性ではなく統計的分布の「裾野」で決定されるため,極微細トランジスタにおける単一電荷の影響とその統計的分布を明らかにすることは,将来の高歩留VLSI回路設計のために極めて重要である.本研究では,チャネル幅が5nm以下という極めて微細な構造を有するシリコンナノワイヤトランジスタを電子ビーム露光により多数試作し,その特性ばらつきを測定した.最小のチャネル幅は2nmである.その結果,チャネル幅が狭くなるにしたがってしきい値電圧(Vth)ばらつきは増大し,しかも分布は正規分布から外れ高Vth領域に裾野をもつことが明らかになった.この特性ばらつき増大の原因は量子閉じ込め効果である.さらに,単一電荷の影響を調べるため,ランダムテレグラフノイズ(RTN)という電荷1個の影響によるノイズ特性を測定した結果,チャネル幅が狭いほどRTNによる電流振幅が増大し,しかもその統計的分布は正規分布から外れることを明らかにした.微細トランジスタにより構成されるVLSIでは,単一の電荷による特性変動の影響が極めて大きく,その抑制法の開発が必須である.
|