本研究の目的は、対象物からの反射波との共鳴状態を作るマイクロ波/ミリ波帯発振器を用い、新しい原理に基づく変位/振動センサを実現することにある。この方式は、対象物の位置変位を共鳴によって得られた周波数の変化としてΔΣ変調方式で取り込むため、広周波数帯域、高分解能、高ダイナミックレンジが期待できる。この実現のため、広帯域で発振可能な負性抵抗素子と、広帯域アンテナを集積する。本センサは、これまでの多くの変位/振動センサよりも高い性能をオンチップで実現できる。 本年度は昨年度の検討で明らかになった最も重要な問題点である発振器の位相雑音が周波数ΔΣ変調に与える影響に関して検討を進めた。まず、発振器の位相雑音を、周波数的に等間隔で分布した多数の振動子の集まりとしてモデル化し、それらの振動子の振幅と位相雑音の関係を導いた。これを用いて、周波数ΔΣ変調時のノイズフロア、信号強度、SN比の関係を定量的に表す式を得た。また、位相雑音とジッタとの関係を用いて、サンプリング時における発振器の位相ゆらぎを正規分布したジッタとしてモデル化し、位相雑音を含んだ周波数ΔΣ変調のシミュレーションを可能とした。両者はよく一致し、導出した関係式の正しさを実証した。 次に、本研究の目的である、変位/振動センサを実現するための、アンテナ/反射板構造に関する研究を進めた。この構造は、昨年度実験した空洞共振器とは異なり、アンテナ、反射板の2つの構造からり、対象物に影響を与えずに、振動、変位を測定することが可能となる。電磁界解析を用いて形状を設計し、それらのプロトタイプを作製した。さらに、これに対して、ベクトルネットワークアナライザによるSパラメータの測定を行い、目的とする周波数近辺で発振可能なことを明らかにした。現在、ゲイン回路を設計しているところである。
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