研究課題/領域番号 |
26630156
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
手老 龍吾 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40390679)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脂質二重膜 / CCDイオンセンサ / イオン感応膜 |
研究実績の概要 |
チャネルタンパク質は創薬ターゲットとして主要な位置を占める膜タンパク質であり、チャネルタンパク質に対する薬剤スクリーニング手法が待望されている。本課題では特定のカチオンに選択的に応答するCCD イオンイメージングセンサ(CCD-IIS)上をチャネルタンパク質応答計測へ応用するための要素技術の開発を目的とする。 本課題で用いるCCD-IISはイオノフォアを混ぜたポリビニルクロライド(PVC)膜によって被覆している。平成26年度は、安定かつ欠陥の少ない支持脂質二重膜(SLB)をCCD-IIS上に作製するための技術を確立した。球殻上の脂質二重膜である脂質ベシクルを用いてSLBを形成するベシクル融合法によってCCD-IIS形成を行い、蛍光顕微鏡および原子間力顕微鏡(AFM)観察を行った。蛍光顕微鏡による100 µmオーダーの視野範囲での観察では均一な輝度を持つSLBが形成されたことが確認できた。しかし、AFMを用いた1 µmオーダーの視野範囲での観察では、SLBに直径数十nm程度の欠陥が存在していることが確認された。また、fluorescence recovery after photobleaching (FRAP)法によるSLBの流動性計測を行ったところ、標準試料であるSiO2/Si基板上のSLBと比較して、PVC膜上のSLBは拡散係数が小さく、また流動性成分が小さいことが明らかになった。PVC膜自体の詳細なAFM観察から、PVC膜は組成成分が均一に混合しておらず、その表面上では主に親水性領域が占める中に数十~数百nmの疎水性領域が混在していることを見出した。そこで、巨大単層膜ベシクル(GUV)の展開によるSLB形成を試みた。Electroformation法によって形成したGUVを用いてSLB形成を行うことで、欠陥がほとんど存在しなくなり、またFRAP計測での拡散係数と流動性成分が大幅に改善した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにPVC膜上でSLBを作製した例は無かったため、平成26年度はPVC膜上でのベシクル融合法によるSLB形成について、実験条件の最適化と原子間力顕微鏡(AFM)および蛍光顕微鏡観察によるSLBの構造観察・物性計測を行うことを予定していた。通常のベシクル融合法ではSLBに欠陥が生じたものの、SLB形成方法をGUV展開法に変更することでSLBの構造および物性を改善た。標準試料であるSiO2/Si上に近いSLBをPVC膜上に形成することができ、当初の予定を達成できたと言える。 また、基板として実際のCCD-IIS素子を用いたSLB形成も行い、こちらも実験条件を確立した。SLBの有無によるイオン応答製の差を調べるための溶液循環用のセットアップもCCD-IIS計測装置周辺に設置して試験運転を行い、順調に稼働した。
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今後の研究の推進方策 |
CCD-IISでは、溶液中のカチオン濃度によってイオノフォアが捕らえるカチオン量を表面ポテンシャルの変化として検出している。溶液とPVC膜が平衡状態に達することが原則であるため、ナノギャップ内での濃度上昇(OPEN時)、分子拡散による濃度減少(CLOSE時)にどの程度追随できるかは、PVC膜内のイオン拡散速度や膜厚に依存する可能性がある。H27年度は、SLBを形成した担持CCD-IIS素子上での溶液交換における時間応答を確認し、必要に応じてPVC膜の膜厚、イオノフォア濃度、可塑剤との配合比などを改善する。SLBによるイオン遮蔽効果が確認できた後に、イオンチャネルとして働くペプチドであるグラミシジンを加えて、CCD-IISによるチャネル応答計測の測定原理を確立する。グラミシジンは構造が単純なため失活しにくく取り扱いと脂質膜中への包埋操作(再構成)が用意で、チャネル電流計測系における測定システムの実証のために広く用いられている。K+やNa+について、シングルチャネルの電流値(=イオン流量)やOPEN/CLOSE頻度、これらの印加電位およびイオン濃度への依存性が明らかにされている。この情報をもとに、SLB/CCD-IIS系においてイオン流による濃度変化がどの程度の強度・時定数のポテンシャル変化の情報として得られるかを実測し、SLBおよびPVC膜の作製法などの実験条件や、データの取得・解析方法も含めて測定手法を確立する。また、16K画素を持つCCD-IISから独立に得られる16K本のデータから統計的にデータを抽出するための解析プログラムを作成する。
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