研究課題/領域番号 |
26630160
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
桑原 裕司 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00283721)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | プラズモン共鳴 / 円偏光発光 / 有機電界発光素子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、プラズモン共鳴効果を利用した、有機電界円偏光発光素子を試作することにある。キラル分子を被覆した金属ナノ粒子を、従来の有機電界発光素子に挿入することにより、光学不活性な素子からの発光を、偏光したプラズモンの強い偏光電場により偏光・増強発光させる。局在偏光プラズモンとの共鳴により、偏光発光を実現する。 初年度は、キラル有機材料からの円偏光発光の検出、およびその円偏光度の定量的解析、薄膜化することによる発光強度および円偏光度の変調を、順次解析した。試料にしたキラル分子は、PTCDI分子および、ヘリセン分子である。PTCDI分子においては、薄膜化により、単分子本来の円偏光性とは異なる興味深い性質が現れることを見出した。すなわち、単分子と比較して、円偏光の極性(右円偏光と左円偏光のどちらが優勢に発光するか)が反転し、またその円偏光度が数10倍に増加することが観測された。これは、薄膜状態を形成する際、溶液中に分散する場合と違い、分子間相互作用により新たなキラリティを発現する凝縮状態が形成されたこと、さらに固定化により、その円偏光度が増大したと結論した。一方、ヘリセン分子については、固体表面上で、二層以上の薄膜を形成する際、特異な自己組織化構造が得られた。しかしながら、発光効率はPTCDIに比べてはるかに小さく、電界発光素子として使用するためには、合成の段階で発光効率を増強させる工夫(らせん構造の伸長、官能基の変更等)が必要であることが分かった。 プラズモン共鳴の検討では、分子の円偏光が、表面構造及び金属微粒子等の非対称性からくるプラズモンの強い円偏光に強く依存することが示唆され、使用する微粒子の形状を精緻に制御する必要があることが分かった。また、今後、素子化するに当たり、光取り出し電極として、軽量でかつ薄膜化が可能なグラフェン電極の検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、素子化を前提とした、キラル分子によるプラズモン共鳴円偏光発光に関する基礎的データを取得することを、主な目的とした。円偏光発光の検出、およびその円偏光度の定量的な解析等、順調に研究は進んでいる。また、薄膜化による新たな工学非対称性を発見するなど、本来の単分子が持つ円偏光特性が必ずしも素子化した際の円偏光特性とは同じではないことを実証するなど、予想以上の知見が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、一年目に得られた結果をもとに、実際に有機LED素子を作製することにより、その性能をデバイスレベルで評価する。 一方、円偏光のための有機材料の再検討を並行して行う。また光取出し電極として、ITOに対してグラフェンシートの使用を検討する。これは、素子の軽量化、薄膜化、さらにはコスト削減に関して有効な方向転換であり、本素子の可能性および波及効果を増大するものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度OLED作成のための電極材料としてITOを購入し、有機膜の蒸着を行うことにより素子作成を計画していたが、ITOに代わりグラフェンシートを使用することが素子の薄膜化、軽量化、および価格面でも安価であるためその使用を調査、検討した。そのため、ITOに充てるべき予算を繰越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、グラフェンシートを購入し、電極材料およびドーピングによるホール輸送層としての可能性を検討して、素子材料に適用する。
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