昨年度に引き続き、共同研究先である産総研ナノエレクトロニクス部門より供給されるトンネル電界効果トランジスタ(TFET)試料に関して研究を行った。TFETはゲート変調可能なPIN構造であることからシリコンバンドギャップ深くに位置するダングリングボンド欠陥を介した量子ドット的電気伝導が可能であり、昨年度までに温度200Kでのダングリングボンドを介した量子ドット的電導の観測に成功していた。今年度はダングリングボンドに変わる、より制御性の高い深い準位の探索と更なる動作温度の向上を目指した。 制御性の高い深い準位として、シリコン中のAl-N複合不純物を用いた。この複合不純物はシリコンにALとNをイオン打ち込みにて導入したのち、低温で熱処置することで得られる。このAl-N複合不純物を導入したTFETにおいて最大0.3eVに及ぶ強い量子閉じ込めを実現し、室温における単一電子トンネル効果を観測することに成功した。素子は温度サイクルや経時変化にたいしてきわめて丈夫であり、これまでに報告されている室温動作単一電子素子とくらべて非常によい性能を持っている。 また1.5Kから12Kまでの温度において、Al-N複合不純物起因と思われる電気検出磁気共鳴を観測した。さらに温度8K程度において、磁気共鳴信号位置が2レベルテレグラフノイズ的に変化する現象を観測した。このテレグラフ的変化は電子スピン近傍の核スピンに由来する可能性があり現在解析を進めている。 計画書に上げた、深い準位を介した単一電子伝導を室温において再現するという目標を達成できた。また室温にまでは及ばなかったものの、10ケルビンで単一スピン磁気共鳴を観測できた。従来型量子ドット素子を用いたこれまでのすべての研究においては単一スピン磁気共鳴の観測は0.1ケルビンの極低温に限られていた。我々の達成した動作温度は2桁もの性能向上を意味している。
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