本年度は初めにInPを媒質とした音響光学変調器(AOM:Acoust-Optic Modulator) のFM特性の広帯域化に取り組んだ。従来のAOMでは変調周波数を変化させると出力信号の偏向角が変わるため、固定の空間結合系で出力を取り出す一般的な構造では周波数変化によって損失が増大し、広帯域な動作が困難であった。そこで本研究では、反射された回折光を入力端において偏波ビームスプリッタで取り出す往復型のAOMを作製した。このような構成とすることで、変調周波数150 MHz±50 MHzの範囲で挿入損失が1 dB 以下となる広帯域なAOMを実現した。 また本年度はさらに、往復型InP-AOM及び、昨年度作製した通常のInP-AOMを用いた光VCO-PLL回路を作製した。本回路によってデータ信号と局発信号の光位相同期を行い、偏波多重10 Gbaud 64 QAM(Quadrature Amplitude Modulation)信号のデジタルコヒーレント光伝送実験を行った。両回路とも10 degree程度の位相雑音で光位相同期を実現しており、これを用いることで120 Gbit/s-64QAM信号を150 km伝送することに成功した。本成果はAOM型光VCO-PLLシステムを用いて初めてデジタルコヒーレント伝送に成功したものであり、当初の目標を達成することができた。 本研究ではQAM多値度のさらなる増大を目標としていたが、光PLLの位相雑音が大きいため、符号誤り少なく復調することが困難であった。これを改善するためにはAOMに入射する音響波と光信号の相互作用にかかる遅延時間の抑制が重要であることを本研究では明らかにした。今後、AOM素子の小型化やフィードフォワード制御方式の採用によって遅延の抑制を図ることで光PLLの性能改善が期待される。光PLLの性能が改善されれば、コヒーレント伝送の多値度を増大することが可能になる。
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