研究課題/領域番号 |
26630173
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
半田 志郎 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (00156530)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 可視光通信 / 衛星通信 / アバランシェ・フォト・ダイオード / ゆらぎ特性 / ぎんれい |
研究実績の概要 |
信州大学が開発した可視光通信実験衛星“ぎんれい”は,平成26年2月28日HⅡAロケットにより打ち上げられ,平成26年11月頃に大気圏に再突入してその寿命を終えた。 本研究課題の目的の一つは,“ぎんれい”からの光信号を簡易な地上局で電気的に捉え,しかも当初の“ぎんれい”計画では想定していなかった昼間における受信を試みることにあった。まず,衛星追尾等の実験及びカメラ撮影の準備実験も行い万全を期して,可視光受信装置が揃った7月より受光実験を開始した。しかし,日本上空を飛行する回数自体が少ないこと,雨天や曇りなどの場合は実験中止となること,及び全日照(衛星が1日中太陽に照らされている状態)の最中には,衛星の温度上昇を考え実験が出来ないことなどにより,実験回数は限られていた。また,衛星の姿勢制御の関係からかLED光が地上で捉えられた期間も4月から6月に限られ,それ以降は皆無であった。従って,本実験においても衛星からのLED光を捉える事は出来なかった。 衛星可視光実験の出来ない期間には地上実験を行い,長距離で可視光の伝搬特性について検討し数学的モデルの検討を進めた。平均的分布特性についてのモデルは,ほぼ完成したが,時間的揺らぎについては検討している最中である。今後は,地上実験で衛星の光がなぜ受光出来なかったのかの検証を行うと共に,長距離可視光通信における大気の影響について,伝搬特性の数学的モデルの精度を上げるための研究を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
可視光通信実験衛星”ぎんれい”に搭載のLEDからの可視光信号を電気的に捉える事に関しては成功しなかった。その要因について様々の検討を行っている。7月以降,地上の天文台やアマチュア観測者等もそれぞれ”ぎんれい”プロジェクトからの発表を基に望遠鏡やカメラをその方向に向けて観測していたが,成功していない。高性能カメラで捉える事の出来る星の明るさから推定したところ,想定した明るさのLED光が地上に向けて発光されていたならば,カメラにその痕跡が残されていても不思議ではなかった。以上の事から検討すると,それ以外の要素があった事が考えられる。(1) LED素子が宇宙線によって破壊され機能していなかったこと,(2) 衛星が首振り運動で短い周期で回転していたため光軸が合う時間が非常に短時間になり,カメラには記録されなかったこと,(3) 衛星のLED発光面が地球側を向いていなかったこと,などが考えられる。このうち,(1)については,発光実験の後に蓄電池の電圧が下がっていた事から可能性は薄い事が分かっている。(2)の要因について,地上実験では光軸を合わせた上で受光電力を測定しているため,どの程度受光電力が下がるかはハッキリしないが,物理的な動き程度であるならば,伝送速度との関係を考えると一瞬でも光軸が合った時間があるならば何らかの痕跡は捉えられたと考えられる。 今後の超小型衛星によって可視光通信を検討する場合には,光軸合わせの技術は避けて通れない。今後は,地上実験で(2)の要因を含めて,信号の揺らぎ特性を検討してゆく。
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今後の研究の推進方策 |
衛星がその寿命を終えたので,今年度は地上実験により,将来の計画に備えて可視光受信の高精度化及び理論検証に力を注ぐ予定である。今回は可視光の受信にAPD(アバランシェ・フォトダイオード)を用いたが,通常のPD(フォトダイオード)を用いて光電変換した後に電気的に増幅する形式や,PMT(Photomultiplier Tube;光電子増倍管)を用いた高精度な光観測の形式も考えられる。それらは,それぞれ一長一短があるため,衛星可視光通信に最も適合する形式はどれなのかを見極める必要がある。そして,それらについての受信特性を検討すると共に,長距離可視光通信で最も問題になると考えられる受信信号の揺らぎ特性について検討する。これらは主に大気の影響と考えられるので,地上実験を行ってその距離対揺らぎ特性を計測すると共に,それらを数学的にモデル化することにより,今後計画される長距離可視光通信の設計に役立てる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度にリースを予定していたスペクトルアナライザについて,短期間の無料お試し期間が利用できたこと,及び予定していた性能を有する新たなスペクトルアナライザが新発売され,リース予定金額よりも安価に購入できたことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は,平成27年度請求額と合わせて,出張回数の調整や消耗品等の調整で使用する予定である。
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