人工衛星“ぎんれい”は大気圏に再突入して寿命を全うした。これにより、長距離可視光通信実験ができなくなったので、今年度は、可視光通信の信号伝搬特性について地上実験のデータを基に主に振幅揺らぎについて検討をおこない、さらに伝搬モデルの推定を行った。以前の実験において,特定の周波数(3.5MHz)の正弦波の可視光伝送について,受信電力は距離の4乗に反比例して減衰すること,及び,信号振幅の揺らぎについては距離と共に大きくなることは確認できていたが,受光回路の帯域幅の全域について同様の検討を行い,振幅及び電力の分布について,同様の結果が得られることを確認した。なお,分布の検定には2標本K-S検定を用い,優位水準1%において,振幅については仲上-m分布,電力につてはGamma分布となっていることが確認できた。 今回の実験では,一定の周波数の正弦波で可視光を強度変調して伝送し,PDで受信している。これをモデル化するにあたり,通常の電波伝搬における数学的モデルが参考になる。電波伝搬と異なるところは,以下の2点である。 ①送信,受信共前方のみへの放射,受光であり,その範囲もかなり限定されている。 ②電波の様に反射や屈折は何処ででも起こるわけではなく,空気層等での散乱,屈折程度であると考えられること 以上のことを考慮して,入射角範囲が限定された(直接波との位相差が限定された)散乱波と直接波の合成波について,入射角の広さに応じてどのように変化するかを,計算機シミュレーションにより確認した。その結果,受信信号の振幅分布については,K-S検定に基づき,仲上-m分布となること,及び入射角の範囲が狭くなるほど振幅範囲が狭くなることが確認できた。これは,散乱波が距離が遠くなるほど広角になることに相当し,実験結果に相応していると考えることができる。
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