研究課題/領域番号 |
26630176
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
引原 隆士 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70198985)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エネルギーハーベスティング / 非線形振動子 / 乱流 / 同期現象 / 確率共鳴 / ワイドバンドギャップ半導体 |
研究実績の概要 |
本研究は自然界に偏在する流体,構造系などの広帯域の連続パワースペクトルを有する流れ,振動から,微小な力学エネルギーを回収する技術に関する基礎研究である.従来振動に関するエネルギーハーベスティングは,線形振動子が外部励振により共振する振舞いを利用するものが大半であった.本研究は,自然界に存在する波動・振動が特定周波数だけではない点に着目し.広帯域に拡散したパワースペクトルからエネルギーの回収の実現を図る.特に,周波数スペクトルの広帯域のエネルギーが回収できる非線形振動子,およびその結合振動子を設計し,そのパワースペクトルから圧電素子等により電気出力に変換すると共に,オン抵抗の小さいワイドバンドギャップ(GaN, SiC)半導体を適用した高周波高効率変換回路を提案するものである. 本提案に関して本研究は,低次元の非線形振動系に生じる振動の同期,および確率共鳴の原理に基づき,広帯域のパワースペクトルを有する振動から,単一励振の共振と同じ原理でエネルギーを回収できるメカニズムを明らかにした.また,その際に位相が効率を決定する重要なパラメータであることを理論及び数値計算により明らかにした.加えて,高次元の乱流などの広帯域スペクトルの振動による励振を受けた際に,同期,確率共鳴の原理により,効率よくエネルギーを吸収する低次元振動子の構造を検討し,設計・製作した.一方で,効率の良い機械電気変換回路にワイドバンドギャップ半導体を用いる検討を行ったが,駆動の閾値電圧が高く,定電圧出力の圧電素子出力を入力とした場合には望ましい出力が得られないことが明らかとなった.そのため,機械電気変換回路の素子の見直しが必要であるとの判断に至った. 以上の成果に関して,査読付き論文2編が採択され,1編が現在改訂中である.また,関連する振動子の技術に関して1件の特許申請も行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案課題に関して,本研究は従来に無い手法を提案している.まず,共振を用いた振動エネルギーの回収に関しては,振動子に非線形特性を付与し,非線形振動の同期の現象もしくは確率共鳴を利用した原理の適用を図った.非線形振動子は,外部励振に対して連続スペクトルを有する非線形振動を生じる.またこの振動子は,外部の同じクラスの力学系から得る非線形励振に対して,同期する特性もある.本研究ではそのような非線形振動子の製作を行った.次に確率共鳴の利用を検討していた.確率共鳴は微弱なノイズにより共振同様にエネルギーが集中する現象であって,共振同様に利用できる可能性がある.本研究は,これらの原理について理論及び数値計算により可能性を検討している.これは,従来エネルギーハーベスティングにおいて,廃棄されて来た線形振動子の固有周波数以外のスペクトルの振動エネルギーを,工学的に利用することができることを示した. 一般に収集エネルギーは,圧電素子を用いた回路等による電圧から収集する.これらのエネルギーを利用するためには必ず電力変換回路を用いなければならない.しかしながら,微小エネルギーの変換に,外部の電力で増幅するような回路は適用できず,受動回路のみから成る新しい変換回路が不可欠となる.これに対して,GaN, SiC などのワイドバンドギャップ半導体の適用を試みた.これらのデバイスの耐圧および低オン抵抗の特性は小容量のSi素子よりも優れ,複数の回路による損失が影響するハーベスティングの分野では大きな意味を持つことが予想された.しかしながら,市販の素子は大容量のものが多く,本研究課題の目的には適さないことが明らかとなった.そこで,圧電素子の利用は取りやめ,磁石とコイルによる電磁式に誘導発電方式を用いた検討に切り替える必要が生じた.その上で改めて平成27年度以降に回路の検討を行っていくことを判断した.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画で設計・製作した非線形振動子に関して,対象とする乱流による振動の大きさ,周波数を定め,そのハーベスティングが可能な周波数帯域を確認すると共に,調整可能なパラメータを特定する.非線形振動の同期,および確率共鳴のメカニズムによるエネルギーハーベスティングの有効性を検証し,それらの原理がそれぞれ有効な範囲を特定し,評価することが今後の推進の基本となる.これまで得た知見をさらに確実なものとするため,実験及び数値計算を行う予定である. 一方,圧電フィルムもくしはMEMSデバイスの特性と振動子の振動周波数とのマッチングの方法には難しい点があり,より現実的に非線形振動子の振動周波数の帯域で最も発電効率の良い機械電気変換素子を用いる必要がある.当面は電磁誘導を用いた振動からの発電要素を適用し,比較的大きな電圧と電流化で機械電気変換ができる状況を設定し,それに基づいて原理を確認する. 適用を検討しているワイドバンドギャップ半導体は,高耐圧,大容量のものが多いため市販のものでは難があるが,企業で試作されている素子などの適用を検討し,ワイドバンドギャップ半導体が同分野でも有効であることを示していくことを継続して実施する予定である.
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