研究課題/領域番号 |
26630191
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
松川 真美 同志社大学, 理工学部, 教授 (60288602)
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研究分担者 |
齋藤 充 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (50301528)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | コラーゲン / 超音波 / AGEs |
研究実績の概要 |
骨組織の粘弾性を定量的に測定し、疾病などにより劣化したコラーゲンなどの「骨質」を安全に評価する超音波技術を開発するため、下記の研究を行った。 ウシなどの大型動物の皮質骨を用いて、樹脂包理なしに研磨により厚さ100μm以下の薄片試料を作成した。これらの試料中に人工的にAGEs(Advanced Glycation End Products)による架橋を生成した。14日程度の糖化により通常の2-3倍の架橋の生成を液体クロマトグラフ(HPLC)アミノ酸分析システムを用いて確認した。このAGEsによる骨の弾性変化を骨基質マトリクス中の音速変化として観測するため、顕微Brillouin光散乱計測システムを改良し、スポット径10μm程度の領域のGHz域の縦波音速測定に成功した。この程度の空間分解能があれば、骨のマクロな構造の影響を回避して音速測定が可能となる。 生理食塩水のみに浸漬した参照試料と糖化を行った試料のそれぞれを複数作成し、糖化による音速変化を検討したところ、糖化試料では浸漬開始後3-4日で音速がわずかに増加した後、低下に転じ、最終的には音速低下が初期音速の5-6%に達した。しかし、参照試料ではこのような変化が観測されなかった。試料の質量は大きく変化しなかったことから、この結果は架橋の進捗に伴う弾性の低下を示唆している。同様な検討を、Ⅰ型コラーゲンフィルムを用いて行ったところ、やはり糖化した試料のみ音速(弾性)低下が観測された。これらの結果より、糖化が骨質に影響し、特に糖化が著しい場合には力学的性質に大きく影響することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初困難と考えていた薄片試料の作製に成功するとともに、骨中の微小領域の音速測定が可能となった。骨のような不透明材料の光散乱測定は信号が微弱であるため困難であったが、研磨の工夫により可能となった。今回の研究では、AGEsが生成された試料中の音速が低下した。AGEsが生成された骨の強度低下はすでに力学的手法などを用いて報告されているが、音速や弾性的性質の変化についてはまだ報告されていない。架橋が生成されると、その程度によっては弾性の増加も予測される。本研究結果は、AGEsによる骨質の変化についてこれまでにない内容であり、当初予定していた研究計画以上に進展している。この成果をうけて、一般の超音波診断装置と同程度のMHzの周波数で、in vivoに近いサイズの骨の糖化と音速の関連を測定するシステムの構築も始めており、27年度の研究遂行に向けて準備も整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
26年度の研究内容をもとに、市販の超音波骨診断装置と同程度の音速測定システムを構築し、in vivoの骨程度のサイズ(厚さ1-数mm)の試料を用いて、糖化と音速の関係について検討する。実際の糖尿病患者のAGEs生成についても、文献調査を進め、疾患による骨の変化が音速変化として評価可能であるかどうかを検討する。架橋量の測定については26年度と同様に液体クロマトグラフ法を用いる。 Brillouin光散乱による骨評価も継続し、電子顕微鏡なども利用して、糖化した骨の構造変化や物性変化がどのように音速変化に寄与しているか検討を進め、骨の音波物性の理解に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
実際の研究遂行に際し、物品費や人件費等の運用上714円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
26年度の残額は27年度の物品費や人件費などの運用に使用する。
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