研究課題/領域番号 |
26630195
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
井村 順一 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (50252474)
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研究分担者 |
井上 正樹 慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (80725680)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生体分子回路 / 分岐解析 / 合成生物学 / ロバスト性解析 |
研究実績の概要 |
所望の機能をもつ大規模な生体分子回路の設計論を開発するため,本年度は,主に以下の三つの課題に取り組んだ.基礎理論の開発として,(1)非線形動的システムの平衡点の存在性解析と,(2)ロバスト双安定性・不安定性解析の二つの課題,そして,開発した理論の有効性検証のため(3)二つの生体分子回路の接続性解析の課題である.詳細を以下に示す. (1)不確かさを有する非線形フィードバックシステムにおいて,平衡点が不確かさによらず一定数だけ存在する条件を導出した.また,それらの平衡点の存在領域を定量的に見積もる方法も与えた.これらの解析は,今後,複数の生体分子回路の接続後の平衡状態の解析に利用する予定である. (2)1と同じ対象システムにおいて,不確かさによらず,複数の安定平衡点が共存する条件を求めた.今後は,生体分子回路特有の非線形関数の単調性を利用して,条件の精密化をおこなう. (3)1,2の基礎理論をもとに,双安定な二つの平衡状態をもつスイッチの生体分子回路の接続性解析をおこなった.この生体分子回路に別の回路を接続したときに,双安定性が崩れないための条件を導出した. (2)の研究の過程で,複数の生体分子回路を接続するとき,(4)ある安定平衡点の吸引領域が接続数に比例して拡大する現象を発見し,その現象の詳細な解析をおこなった.当初の研究目的は,生体分子回路の接続によりもとの回路の機能が壊されないための理論開発である.しかし,(4)の現象を更に解析することで,接続によりもとの回路の機能がさらに強化されるための理論開発も視野に入れて,今後研究を進める予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的を達成するため,26年度に研究計画として挙げていたのは,(1)非線形動的システムの平衡状態の存在性解析,(2)ロバスト双安定性・不安定性解析,(3)ネットワーク系の感度・ロバスト性解析法の開発と既存の生体分子回路での検証,(4)生体分子回路の接続性解析の四つであった.まず,1,2,4における目標は,いずれも計画通りに達成することができた.ただ,3の課題では,基礎理論をもとにした感度解析法の開発までは完了したが,既存の生体分子回路での検証までは達成できなかった.この理由は,2の研究過程で新しい現象を発見したため,計画していたよりも理論の深化に注力したためである.
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今後の研究の推進方策 |
27年度は,26年度に開発した基礎理論と生体分子回路での検討結果をまとめ,生体分子回路のボトムアップ設計論を構築する.そして,オシレータ回路やスイッチ回路を組み合わせた大規模な生体分子回路設計をおこなう.このためには,生体分子系の接続性解析のためのモデリングが必要である.特に,詳細なダイナミクスよりも入出力特性の解析に重点をおいてモデルを構築する.また,26年度はおもに,細胞の運命決定などで現れるスイッチ機能をもつ生体分子回路の設計論を特に考えてきた.今後は,生体リズムなどで現れるオシレータ回路をもとにした設計論へ展開する必要がある
さらに,26年度に発見した,回路の接続数に比例してある平衡状態の安定度が増す現象に対する理解を深化させ,生体分子回路設計論に展開することも考えている.接続する回路数が増え,大規模になるに従い,機能が強化されるような生体分子回路の設計が期待できる.当初の計画にはなかったが,研究の重要性とインパクトの大きさから,この研究課題にも取り組む.
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