研究課題/領域番号 |
26630210
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
蘇 迪 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (40535796)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 携帯情報端末 / 中小鉄道 / 軌道異常検知 |
研究実績の概要 |
本研究では,地方中小鉄道を対象として,近年急速に進歩した安価な携帯情報端末を用いて営業車両の振動応答を観測し軌道異常を早期検知する,簡便かつ高頻度な常時モニタリングシステムを構築する.本システムは鉄道事業者に僅かの負担をかけて,安全性を向上させ,事故の発生を未然に防ぐと共に,鉄道インフラの維持管理の合理化を図るものである. 本年度は,現在広く普及している携帯端末(iPod touch)を利用し,加速度と車内音の計測およびデータ解析を通して列車の位置同定を行う手法を提案した.車内音データから背景雑音を除去することで,レール継目音データの抽出に成功し,列車位置を約5%程度の推定誤差で同定することに実現した.これにより,GPSを使用できない地下区間やトンネル区間においても,車両改造を必要としない簡易な手法で列車位置を同定することが可能となる. また,中小鉄道企業の軌道管理において,波状摩耗と呼ばれる原因不明のレール変状を着目した.本研究では都市高速鉄道に設けられたフローティングスラブ軌道で外軌側に約30cmという長波長の波状摩耗を対象とし,開発した車両力学モデルを用いて,振動応答に基づく軌道変状の解析手法を改良し,実現象の振動特性の再現を行った.このような数値解析の成功は,携帯情報端末を用いて,実用上問題のないレベルの軌道異常検知システムへ提案の準備ができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,現在広く普及している携帯端末(iPod touch)を利用し,加速度と車内音の計測およびデータ解析を通して列車の位置同定を行う手法を提案した.多重解像度解析またはスパース表現を用いて車内音データから背景雑音を除去することで,レール継目音データの抽出に成功し,列車位置を約5%程度の推定誤差で同定することに実現した.これにより,GPSを使用できない地下区間やトンネル区間においても,車両改造を必要としない簡易な手法で列車位置を同定することが可能となる.また,従来手法では,加減速段階での速度推定に失敗しているが,本研究では加減速段階における速度推定にも成功している.全てのデータ処理は自動的に行って,中小鉄道業者さんに対して,簡易に適用可能となるため,維持管理に係る予算も限られているのが現状で,効率的に軌道管理に役立つ. また,中小鉄道企業の軌道管理において,波状摩耗と呼ばれる原因不明のレール変状を着目した.これはレール表面長手方向に周期的に発生する摩耗で,この上を列車が走行すると振動・騒音が発生する上軌道狂いを助長するため,抑制が求められている.本研究では都市高速鉄道に設けられたフローティングスラブ軌道で外軌側に約30cmという長波長の波状摩耗を対象とし,開発した車両力学モデルを用いて,振動応答に基づく軌道変状の解析手法を改良し,実現象の振動特性の再現を行った.フローティングスラブ軌道の60Hz付近での応答ピークが明瞭に現れていることが明らかになって,全体の曲げモードに起因していることが分かった.最後に軌道構造が振動特性に与える影響を評価し,軌道振動の対策工を考察する.このような数値解析の成功は,携帯情報端末を用いて,実用上問題のないレベルの軌道異常検知システムへ提案の準備ができた.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度では,携帯情報端末の計測データを想定して,応答データを受け取り軌道性状に変換するデータ処理を携帯情報端末上に実装する.平成26年度の成果を元に,キャリブレーション手法や異常データの除去,統計処理,低分解能計測値の扱いも実装する. また,Webシステム,携帯情報端末アプリを公開するとともに,国内でも鉄道総合技術研究所の実験線と代表的な中小鉄道事業者に計測を繰り返し,種々の要因に対する相互補正などにより精度確保の方法を開発する. 最後に,様々な条件(軌道変状,列車速度等)で走行した場合の計測結果に基づき,推定した軌道変状情報を,鉄道管理者にわかりやすく情報提供していくための具体的方法についても検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
開発された手法は,鉄道総合技術研究所の構内試験線において検証実験を行っており,共同研究パートナーにつき,実験装置の使用料金を徴収されていなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
27年度は実装したシステムを利用して国内でシステム試験のための計測をするため,実験費用を支出する予定である.また実証実験を行なうため,携帯情報端末と開発環境を揃えるためのPC ,ソフトウェアを購入する予定である.実証実験に使う外部補助記憶装置をかかる費用,鉄道会社と打ち合わせのための旅費,実証補助にかかる謝金も計上している.国際会議出席,成果を論文に掲載するための論文掲載料も申請している.
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