最終年度では,ミクロスケール・マルチフィジックス理論解析モデルの検証・修正作業および完成を目指した.まず,スメクタイト含有粘土試料の微視構造およびスメクタイトの含有量を把握した上で,自然湿潤状態の供試体と強制炉乾燥により何通りかの水分含有量が異なる供試体を作成して,荷重,水のpH,温度,供試体の方向などを変えながら,膨潤速度,膨潤などのマクロ的膨潤特性を定量的に把握することを目的とした吸水膨潤試験を実施した.そして,自然湿潤状態の供試体も含め,水分状態が異なる供試体の膨潤曲線を比較し,その違いが試験開始時の初期水分の違いのみに依存したものかどうか,スメクタイトが配置された粘土の微視構造のみで決まる特性か否かを調べた.また,昨年度までに開発したマルチフィジックス理論解析プロタイプモデルを用いて,それら膨潤試験に対するシミュレーションを実施し,解析結果と試験結果の比較を通してマルチフィジックス理論解析モデルの修正を行った.さらに,そのミクロスケール・マルチフィジックス理論解析プロトタイプモデルとマクロスケール連成挙動解析モデルを組み合わせたスメクタイト含有地山の膨潤挙動に対するマルチスケール解析手法の構築に取り組んだ.すなわち,すでに確立しているマルチスケール解析理論の枠組みにおいて,スメクタイト含有粘土の微視構造に対するマルチフィジックス理論解析モデルと,地山の変形と水および熱移動を扱うマクロスケール連成解析モデルを組み合わせて,トンネルなどの地中構造物の構築に伴う地山の膨潤挙動を予測評価するためのマルチスケール解析手法のプロトタイプを構築した.
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