研究課題
我が国の主要な水源となっているダム貯水池などにおける閉鎖性水域の水質管理では,藻類(植物プランクトン)が起因して生じる問題(代表的にはアオコや飲料水への異臭味発生)の解決が大きな課題となっている。解決に至る一つの鍵として,藻類増殖による一次生産量について,現場における時空間的な詳細な把握にあると考えられる。本研究では,新しい天然トレーサーとして注目されつつある三酸素同位体を用いて,閉鎖性水域における一次生産の計測方法の開発,および同位体組成を考慮した湖沼水環境のシミュレーションモデル開発について検討した。今年度は,現地観測として富栄養化した湖沼である伊豆沼や中栄養湖,貧栄養湖などにおける現地観測および水環境モデルの開発を行った。伊豆沼においては,湖内植生のうち,大型高等植物としてハスを特に対象とした現存量を含めた季節的な消長や栄養塩循環についての観測を行った。また,この観測結果を基として湖沼の水質・植生環境の解析モデルを構築した。植生の季節的な増加および枯死とその後の水中における枯死体の分解過程に関して,実績観測結果をよく説明しうるモデルを構築することができた。また,溶存酸素の三酸素同位体組成を使って総一次生産速度を定量し、硝酸の三酸素同位体組成を使っ て新生産速度(硝酸同化速度)を定量し,それらの差から再生生産速度を計算できないか試みた。貧栄養湖の支笏湖および倶多楽湖と中栄養湖の琵琶湖を対象に,同一年内に2回(春と夏)試料採取を行い,その間における湖水中の溶存酸素および硝酸の三酸素同位体組成の鉛直分布とその変化から,一次生産が最も活発な時期で あると考えられる春先から夏までの間の各速度を見積もった。その結果,貧栄養湖の方が中栄養湖に比べて新生産の割合が低く、特にリン制限の極貧栄養湖である倶多楽湖の一次生産の大部分は再生生産によることが分かった。
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水工学論文集B1(水工学)
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東北地域災害科学研
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