研究課題/領域番号 |
26630237
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
本田 利器 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (60301248)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インフラ維持管理 / 情報量 / リスク指標 / 管理者行動 |
研究実績の概要 |
インフラの維持管理においては,LCC最小化は重要な課題である.インフラの劣化プロセスは,物理現象のモデル化に基づく確率的な不確定性を考慮する問題として扱われてきた.しかし,劣化の高精度な予測は困難であるため,実際には,点検調査にもとづき逐次修繕を進めるというリスクマネジメントが不可欠である.そのため,実際には,維持管理行動に伴う管理者の優先度判断等の意思決定にも起因する様々な不確実性が存在する.このような背景を考え見るに,LCC最適化だけではなく,リスク評価・管理も重要である. 本研究では,確率密度関数が不確実性を有するという点にも鑑み,情報エントロピー等の指標も導入した定量化を行い,劣化や管理者の行動等の影響による確率的特性の変動に対してロバストな維持管理戦略の策定法を提案することを目的とする. 具体的には,コヒーレンス性などを満たすリスク指標として提案されているentropic risk measure 等を利用して情報理論にもとづくリスクの定量化の考え方を導入する.また,同様のリスク指標を比較検討し,適切な定式化を提案する.インフラ構造物の劣化や維持管理行動の影響を調査し,それらを数値モデル化する.そのうえで,劣化やモニタリング,補修等の影響に不確実性がある事象をモデル化した数値シミュレーションを実施してその性能や適用性を検証する.さらに,このような考え方をインフラの維持管理政策の策定という実際の政策に導入するために必要となる要素や定式化などの基礎的な検討を実施し,その実用性を有する手法を提案する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主に下記の2点を行い,概ね想定通りの成果を得た. (1)劣化・管理行動の不確実性を考慮したシミュレーションモデルについては,国内外のインフラ管理の保守点検の頻度や実施ルール,精度等のモニタリングに関する情報や,その方針,予算等の制約条件,補修の精度等の情報を,文献調査に加え,インフラの管理主体である組織の担当者にインタビューなどを通して調査した.そのうえで,管理行動の影響もふまえたシミュレーションモデルとして,マルコフ決定過程を主に用い,維持管理に伴う意思決定(保守点検,優先順位付け,補修,等)を組み込んだ劣化モデルを構築した. (2)リスクの定量化については,Entropic Risk Measureを中心に検討した.この指標は,数学的な定式化が与えられているが,本研究で扱うようなシミュレーションにおいての活用方法についての議論はなされていない.ここでは,研究代表者(本田)が耐震設計の分野で提唱している手法等を援用して情報エントロピーを算出することで,情報量を適切な精度で評価できることを検証し,また,その計算の効率性を確保する手法等を検討した.
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今後の研究の推進方策 |
H26年度の検討により,維持管理計画策定時にリスクを適切に評価する手法の考え方を検証できた.実際のインフラの管理者は,毎年の点検結果等に基づきインフラの性能や劣化傾向等を評価したうえで,臨機応変に対応を行うという動学的性格を有する.昨年度の検討により,このような動学的な定式化の影響が大きいことがわかり,また,それに対処するための数理的枠組みについての知見がえられたため,H27年度は,このような動学的な性質の影響に着目した検討を実施する.逐次的な意思決定の影響を考慮するための数値モデルを策定し,理論的検討及び数値シミュレーションを通じて,それをふまえたリスク指標や維持管理計画の策定手法について検討する.具体的には,Conditional Value at Risk やEntropic Value at Risk 等の利用について,インフラ維持管理のように逐次的な意思決定を繰り返す過程に関するリスクを評価する際の適用手法や,その効果などについて,理論的検討及び数値シミュレーションによる検討に基づき,定量的に評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
体調不良による学会のキャンセル,論文不採択等により出費が想定よりも減じたため.
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次年度使用額の使用計画 |
学会における情報発信,論文投稿等に利用する予定である.
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