インフラの劣化プロセスは,物理現象のモデル化に基づく確率的な不確定性を考慮する問題として扱われてきた.しかし,実際には,保守点検行為に伴う管理者の優先度判断等の意思決定も影響するため,物理的かつ社会的なプロセスとして考慮する必要がある.また,インフラの維持管理計画の策定は,期待LCC最小化等の長期的な効率性の観点からの最適化問題として扱われることが多い.一方,インフラの場合,劣化損傷に伴う事故を防ぐことの重要性が指摘されている.その観点では平均的な状態よりも,発生頻度は低いが影響が大きい事象の発生確率を抑えることが求められる. 本研究では,将来のインフラの状態値の確率分布の確率的性質が変化することに着目した上で,インフラの価値や維持管理コストのばらつきを評価する手法を検討している.これまでに,不確実性を有する点検などの結果に基づいて補修優先順位付けなどの管理者行動や管理戦略の変更はテイルリスクを厚くする可能性があることを指摘した.そのような変化を踏まえてリスクを評価するにはConditional Value at Risk等が有効であるが,リスクを情報量に基づくEntropic Value at Riskでより適切に定量的な評価が可能となることを示した. これらの評価指標を,維持管理という逐次的な意思決定を行う過程に適用すると,各時点の状況に応じて実施されるという動学的な性質に起因する時間的不整合といわれる問題が生じる.この問題に対処するため,繰り返しリスク指標の考え方を参考に,維持管理の意思決定に適用可能な評価法を提案した. この手法を用いる際には,時間ステップ数やとりうる選択肢数に応じて指数関数的に計算量が増加するという問題が生じる.この点について,テイルリスクの評価に適用可能なサンプリング手法を開発し,その有効性を示した.
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