本研究では、都市鉄道が普及しつつある東南アジア大都市において、鉄道が人々に認知され、さまざまなかたちで関わりを持つようになる可能性(鉄道文化普及可能性と名付ける)を探るため、我が国での鉄道と人々との関わりのうちの、鉄道愛好雑誌の意義を確認した上で、同種の鉄道愛好雑誌の東南アジア版を試作し、東南アジアの人々の関心の持ち方を計測することを目的とした。在来鉄道の歴史があり、都市鉄道の種類も増加し、一方で、国民の教育水準及び経済水準の向上もみられるタイを対象とし、試作品雑誌を試読していただき、意識を計測した。 試作品第1号は、この10年ほどのタイでの鉄道に関するトピックに、バンコクの都市交通政策的な視点も込めて、バンコクBTS、LRTの夢、夜行列車、ホアランポン中央駅、空港連絡急行の5つの記事で構成した。読者アンケートの結果、写真についての評価が低く記事の意図が伝わりにくかったこと、LRTのように未知のものへの関心が高いこと、総じて購入意思があることを確認した。 この結果をもとに第2号を製作し、バンコクの新規鉄道建設、大宮の鉄道博物館、ミャンマーの鉄道、ベトナムの鉄道、日本の鉄道で構成した。アンケートでは、第1号に比べて評価は高く、特に日本の記事への関心が高いことが確認でき、購入意向も向上している。また海外事例を含め公共交通への幅広い関心の可能性も把握できた。 今回の研究では、試作品第1号および試作品第2号をとりまとめることができた。これらに対するタイ人の反応は想定をはるかに超えて好意的であり、彼らにとってみれば、今までにないジャンルの雑誌(形態としては実質はニューズレター)として受け入れられ、公共交通への関心を高めるきっかけになっていることが推察できる。鉄道への高い関心を土台としたいわゆる鉄道文化が今後育成されていくために、今回のような鉄道雑誌の発行は有効であるといえる。
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