病原性ウイルスによる水系感染症の制御には,消毒処理過程におけるウイルスの感染性の消長,並びに不活化メカニズムを詳細に把握し,効果的且つ効率的な処理を施すことが重要となる.しかしながら,不活化メカニズムの解明に向けた革新的な手法が未確立であることから,培養不可能なウイルスは勿論のこと,培養可能なウイルスでさえ不活化メカニズムの解明には至っていないのが現状である.そこで,本研究では,精密質量分析を応用することにより,ウイルスの感染性を決定づけるカプシドタンパク質の変性をアミノ酸レベルで捉える全く新しい手法を開発し,培養可能なウイルスのみならず,培養不可能なウイルスの消毒処理における不活化メカニズムを解明することを目的とした. 本年度は,塩素処理前後の大腸菌ファージMS2のカプシドタンパク質の質量分析を実施した.その結果,塩素処理において残留塩素の中和に使用したチオ硫酸ナトリウムによるタンパク質のイオン化の著しい阻害が確認された.そのため,塩素処理やオゾン処理といった処理後に中和を伴う消毒処理においては,中和後のタンパク質の更なる精製を検討する必要があることが明らかとなった.また,アデノウイルスを研究対象とし,紫外線照射処理前後のタンパク質の質量分析についても実施した.その結果,アデノウイルスのカプシドタンパク質(IIIa,VI,IX),並びにコアタンパク質(V,VII)の質量分析に成功し,処理前後において,これらのタンパク質の質量は変化しないことが確認された.
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