研究課題/領域番号 |
26630243
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐藤 久 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80326636)
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研究分担者 |
石井 聡 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10612674)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環境分析 / 衛生 / マイクロ・ナノデバイス |
研究実績の概要 |
本年度は金薄膜に自己組織化単分子膜を介して抗体を固定化するプロトコルの確立を行った。1㎝角に調製したガラス基板にチタン10 nm、金190 nmを蒸着した。この基板を5 mMのDithiobissuccinimidyl propionate (DSP)-メタノール溶液に浸漬し、DSPの自己組織化単分子膜(SAM)を形成後、そこにリガンドである抗O157モノクローナル抗体(ViroStat社)を添加しアミンカップリング法により抗O157抗体を結合した。まず、SAMの炭素鎖数が測定に与える影響を評価した。炭素鎖数が3個であるDSP-SAMを用いることで、最も大きい酸化電気量を得ることができた。DSU、DSOを用いた際は、炭素鎖数が多くなることで抵抗が大きくなり、酸化還元反応が生じるポイントとAu表面との間で電子の移動が阻害されてしまった、と考えられる。この結果を受け、本研究ではDSPをSAMとして用いることとした。次に、固定化時間および固定化濃度の最適化を行った。どの濃度のDSP溶液とAu基板を反応させても、30分で飽和吸着に達していたことが示唆された。また、抗体固定化時間を最適化した。60分で抗体が飽和吸着に達したことが示唆された。また、アミノフェロセンの固定化を最適化した。pH7.4のPBSを溶媒に用いることで、最も効率よく固定化されたことが分かった。ブロッキング剤(エタノールアミン)の固定化を最適化した。5分以上エタノールアミンでブロッキングすることで、残った活性部位を不活化できることがわかった。基板表面をSTMを用いて解析した。固定化のそれぞれの段階で基板表面に予想通りの構造が構築されていることが確認できた。電荷密度の低いフェロセンの鉄原子が点在していることが確認できた。抗体と思われる多くのY字構造を確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の目的は「金薄膜に自己組織化単分子膜を介して抗体を固定化する」ことであった。今年度は、金薄膜に自己組織化単分子膜を介して抗体を固定化することに成功した。さらには、固定化方法を最適化し、基板表面のナノ構造をSTMを用いて解析できたことから、このように評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
センサの性能評価:緩衝溶液にO157およびノロウイルスGII.4のウイルス様タンパク質を異なる濃度になるように添加し検量線を作成する。この実験を通じてレスポンスタイムと検出限界を明らかにする。O157以外の大腸菌、およびノロウイルスGII.4以外の遺伝子型のウイルス様タンパク質をセンサで測定し、センサのO157およびノロウイルスGII.4への選択性を検討する。センサへの夾雑物の影響を明らかにする。目標(レスポンスタイム:1分、高感度化:100倍、小型化:1μL)が達成できなかった際は抗体を変更する、自己組織化単分子膜の親水性を変更する、金薄膜面積を変更する、送液流量を変更する、などの改善を行い、再度性能を評価する。このトライアルエラーを繰り返し、センサを最適化してゆく。 実環境サンプル測定と最適化:最適化されたセンサチップを用いてセンサを構築する。環境サンプル(河川水、水道水、下水、食品、糞便など)に非病原性のO157およびノロウイルスGII.4のウイルス様タンパク質を異なる濃度になるように添加し検量線を作成する。センサの性能評価と同様の方法でセンサのレスポンスタイム、検出限界、選択性を明らかにする。センサへの自然界に存在する夾雑物(SS、有機物、無機イオン、微生物)の影響を明らかにする。夾雑物がセンサ検出値に悪影響を及ぼすことが判明した場合には、簡単な前処理(フィルターを用いたろ過、遠心分離、pH調整、キレート剤の添加など)を施す。この結果から、本センサの環境サンプルへの応用可能性を明らかにする。
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備考 |
「サイクリックボルタンメトリーを用いた腸管出血性大腸菌O157バイオセンサの開発」で 第49回日本水環境学会年会年会優秀発表賞(クリタ賞)を受賞した。
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