最終年度はO157バイオセンサを開発した。1cm角に切断したガラス基板に金を蒸着した。この基板を5 mMのDithiobissuccinimidyl propionate (DSP)-メタノール溶液に浸漬し、DSPの自己組織化単分子膜(DSP-SAM)を形成後、そこにリガンドである抗O157モノクローナル抗体を添加しアミンカップリング法により抗O157抗体を結合した。続いて、抗体が結合しなかったDSP-SAMの活性エステル部位に電子メディエーターとして機能するアミノフェロセンを結合した。最後に,残存した活性エステルを1Mエタノールアミンにより不活化した。O157がセンサチップ表面の抗O157抗体に捕捉されるとフェロセンの反応サイトがブロックされ、サイクリックボルタンメトリー測定時のフェロセンの酸化応答電気量が低下する。本センサではこの現象を利用して菌体濃度を定量した。 まず、SAMの炭素鎖数が測定に与える影響を評価した。炭素鎖数が3個であるDSP-SAMを用いることで最も大きい酸化電気量を得た。DSU、DSOを用いた際は炭素鎖数が多くなることで抵抗が大きくなり、酸化還元反応が生じるポイントとAu表面との間で電子の移動が阻害されてしまった、と考えられる。この結果を受け、本研究ではDSPをSAMとして用いることとした。 検出原理から予想される通りO157濃度の増加に伴い酸化応答電気量が低下した。O157を含まない溶液の酸化応答電気量は105 μC/cm2、10 cell/mLのO157サンプル溶液の酸化応答電気量は84.4 μC/cm2であり、低濃度のサンプル溶液の測定も可能であった。検量線のダイナミックレンジは8桁と極めて広かった。
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