本研究は、腸管系ウイルスのヒト組織細胞感染初期に発動する細胞応答に着目し、新規な感染性ウイルス検出手法に活用可能な細胞応答遺伝子及びその産物を同定することを目指すものである。具体的な細胞応答として、特にエンテロウイルス感染時に出現する細胞内小器官の膜構造に着目し、小器官内の陽イオン濃度を制御するために必要なイオンチャネルタンパク質遺伝子について、その発現量をウイルス感染後12時間に渡ってモニタリングした。テストウイルスとしてポリオウイルス1型ワクチン株を、組織細胞としてヒト小腸上皮細胞由来のINT407細胞を用いた。モニタリング対象は、ナトリウムイオンのチャネルタンパク質遺伝子であるSCN7Aと、カリウムイオンのチャネルタンパク質であるKCNJ4である。その結果、KCNJ4遺伝子は感染多重度=1で24時間後、感染多重度=0.1で36時間後に有意に増加していることが確認された。SCN7A遺伝子は、両方のMOI条件で24時間後に有意に増加していることが確認された。ポリオウイルスを高濃度に接種した場合において、両方の遺伝子で短時間の培養時間で発現量の増加が検出された。一方、低濃度で接種した場合、接種後48時間でも有意な発現が生じていることが確認された。特にKCNJ4遺伝子は著しく増加していた。このような発現状況の時間的な差はウイルスと細胞が感染する頻度によるものと考えられる。また,これらの結果から、両方の遺伝子ともウイルスの感染初期に有意に発現が増加することが示唆された。以上の結果から、KCNJ4およびSCN7A遺伝子が、ウイルス感染および感染性ウイルスの存在を早期に検出することが可能な遺伝子マーカーである可能性が示唆された。
|