従来の研究では,淡水で集積培養されたポリリン酸蓄積細菌(PAOs)群集は高塩濃度下で活性を失うと報告されている。すなわち,耐塩性のPAOsの存在はこれまで確認されていない。しかし,ポリリン酸合成酵素であるppk1キナーゼ遺伝子は,排水処理汚泥や水田,湖沼などの淡水のみならず干潟の底泥から見つかっており,耐塩性あるいは好塩性のPAOsが生存しても不思議ではない。そこで本研究では,好塩性(耐塩性?)のPAOsの集積培養を行い,海水および汽水からリンを資源回収できることを実証することを目的としている。まず,干潟底質及び活性汚泥を植種して模擬海水で好塩性(塩耐性)PAOs の培養を試みた。集積培養方法は,密閉型DHSリアクターを好気と嫌気環境に繰り返して行う。培養にはそれぞれの植種に対して次の4条件で行った。①好気(リン濃度5mgP/L)・嫌気(酢酸100mgCOD/L,プロピオン酸100mgCOD/L)環境とも基質は模擬海水,②好気・嫌気環境とも淡水,③好気:淡水,嫌気:模擬海水,④逆の好気:模擬海水,嫌気:淡水。その結果,全ての条件においてリンの取込みと放出が観察され,PAOsの集積培養に成功した。すなわち,好塩性あるいは耐塩性のPAOsは生存していることを明らかにした。培養できたPAOsは淡水あるいは模擬海水に切り替えてもリンの蓄積・放出機能を有する条件もあった。このことは,高塩濃度で生息できるPAOsは多様性があり,ppk遺伝子と16S rRNA遺伝子に基づいた微生物の系統解析により,新規のPAOsのクレードの発見,および各クレードのPAOsにおける好適な生息環境を推測することができた。DHSリアクターにPAOsを集積培養して,海水のみならず汽水からリン濃縮液としてリンを回収できることが分かった。
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