課題1「気候変動後の流域環境の予測」では,名取川(宮城県)流域を対象とした気候変動モデルのダウンスケーリングを行い,複数のシナリオ(RCP2.6、RCP4.5、RCP8.5)下における降水量・気温を予測した.そして,分布型流出モデルを活用して流域内の流量(流速・水深)と水温の空間分布を予測した。 課題2「気候変動後の種の生息分布予測」では,課題1で算出された気候変動シナリオ下で予測される水温・流速・生息環境変数を説明変数として,対象種の個体群密度を目的変数とするmaximum-entropy approach (MaxEnt)モデルを作成し,気候変動シナリオ下の各種の対象流域内の生息可能な範囲を推定した。 課題3「流域環境と遺伝子の適応関係を定量化する連関モデルの開発」では,ゲノムワイドの遺伝子データからBayeScan解析およびニューラルネットワークモデルの自己組織化特徴マップ(SOM)を活用して環境選択性遺伝子座を同定した。そして,課題1で予測された水温・流量等の変数の中から,環境選択性遺伝子座と中立遺伝子座のそれぞれの遺伝子頻度と最も強い連関(相関)を示す環境変数を検索した。そして,各対立遺伝子頻度と連関が認められた環境変数の関係を表す重回帰モデルを作成した。 課題4「気候変動シナリオ下の流域内の遺伝的多様性の将来予測」では,まず,課題1で予測されたRCPシナリオ下の環境変数値を入力し,課題2で導かれたMaxEntに基づいて,将来の種の生息分布域を予測した。また,同様に,課題3で導かれた環境と対立遺伝子頻度の連関モデルから,気候変動下の環境選択性遺伝子座と中立遺伝子座の遺伝的多様性の空間分布と流域全体の遺伝的多様性を予測した。その結果、環境選択性遺伝子座よりも中立遺伝子座の方が遺伝的多様性の劣化がより著しいことが予想された。
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