研究課題/領域番号 |
26630264
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
伊藤 一秀 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (20329220)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 反応・拡散系 / 数値解析 / 真菌 / 室内環境 / 数値流体力学 |
研究実績の概要 |
本研究では,室内環境中に存在する真菌類の増殖現象を再現する数理モデルを定式化した上で,基礎実験結果を基にしたモデルパラメータ同定と,CFDを中心とした既存の室内環境シミュレーションへの統合までを目指すものである.研究の初年度である平成26年度は,研究計画に従い以下の項目を実施した. 1. 反応・拡散・走化性方程式による真菌増殖予測モデルの作成:真菌増殖現象を活性真菌(u,活性化因子)と不活性真菌(v,抑制因子)の濃度拡散とその相互作用と仮定する.u,vに加え,建材表面濃度nを含めた3種の濃度の微分方程式を解くことで真菌増殖を再現する反応・拡散系の真菌増殖モデルを作成・定式化した. 2. 非線形拡散項,反応生成項の検討:培地ならびに建材上での複雑(不均一・非定常)なコロニー形成パターンを再現するため,活性真菌uの拡散項中の拡散係数として,真菌密度,養分濃度に依存した非線形拡散モデルを検討し,定式化した.特に,活性真菌uの生成項として,Michaelis- Menten式を基礎とした養分濃度nと活性真菌濃度uを入力とした改良モデルを提案すると共に,反応生成項に温湿度依存性・自由水量依存性を組み込んだ. 3. 文献データを対象とした反応・拡散・走化性モデル各項の感度解析:培地上での単純な真菌コロニー形成に関する基礎実験データを対象とし,反応・拡散方程式のモデルパラメータならびに各項に適用する数理モデルを変化させることで,各項が増殖速度(コロニー径)に与える感度を確認し,全体最適のためのモデル定数チューニング手順を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従い,粛々と研究を実施している.特に2次元平面上での真菌増殖モデル,ならびに温度,湿度効果の組み込みは当初の予定通りに研究が進行している.2次元の真菌増殖モデルの3次元化と走化性項の組み込み,実験的な検証が次年度(平成27年度)の課題である.
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今後の研究の推進方策 |
1. 培地上での真菌増殖に関する基礎実験:室内環境中に存在する代表的な真菌として,Aspergillus penicillioides (NBRC 33024),Aspergillus niger (NBRC 31628),Penicillium citrinum (NBRC 7784),Cladosporium cladosporioides (NBRC6348)の4種に着目する.濃度を変化させたPDA培地を準備し,胞子懸濁液の初期濃度(培地に塗布する初期の真菌胞子数),雰囲気空気の温度・湿度を変化させた基礎実験を行う. 2. 各種建材上での真菌増殖実験:タイル,目地,合板,壁紙上での真菌増殖速度を計測するため,建材表面に塗布する養分のモデル化を検討する.PDA培地を薄く塗布する条件の他,濃度調整したグルコースを養分に用いる. 3. 反応・拡散・走化性方程式による真菌増殖予測モデルのモデルパラメータ同定:培地上ならびに建材上での菌糸成長速度,コロニー形成速度,コロニー形成の形態データの測定データを基に,反応・拡散・走化性モデルのモデルパラメータ同定を行う. 4. 室内環境シミュレーションへの統合手法の検討:基礎実験で用いた胞子懸濁液の滴下濃度(初期真菌胞子数)と真菌増殖速度の関係を踏まえ,CFD+Lagrangeモデルによる真菌胞子の壁面沈着量(真菌胞子数)解析結果を入力条件として反応・拡散・走化性系の真菌増殖モデルを解析する一連の数値解析手法を開発する.特に,沈着胞子の中で発芽に至る胞子数(有効胞子数)と濃度の関係を記述するQuorum(定足数)モデルの開発に注力する.作成した反応・拡散・走化性方程式で記述した真菌増殖モデルを,タイルと目地による壁面で構成される浴室空間に適用する.CFD解析,壁体内の熱水分同時移動解析と連成させることで,真菌胞子の室内拡散と壁面沈着,その後の真菌増殖を連続して解析した結果を例示する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度(平成26年度)は主に真菌増殖の数理モデル開発と計算機シミュレーションによる感度解析に重点的に取り組んだため,基礎実験ならびに応用実験の準備に関わる費用が次年度(平成27年度)にまたがる計画となり,主な支出が次年度となったため.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度(平成26年度)中に開始を予定していた実験が次年度(平成27年度)に繰り越しになったが,研究はほぼ当初計画の通りに進行しているため,研究費の使用計画に大幅な変更は無い.
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