本研究では,室内環境中に存在する真菌類の増殖現象を再現する数理モデルを定式化した上で,基礎実験結果を基にしたモデルパラメータ同定と,CFDを中心とした既存の室内環境シミュレーションへの統合に取り組んだ.具体的には,真菌増殖現象を活性真菌(u,活性化因子)と不活性真菌(v,抑制因子)の濃度拡散とその相互作用と仮定した上で,u,vに加えて建材表面濃度nと走化性因子cを含めた4種の濃度の微分方程式を解くことで真菌増殖を再現する反応・拡散・走化性系の真菌増殖モデルを作成・定式化した.室内環境中に存在する代表的な真菌4種に着目し,菌糸成長速度とコロニー形成速度の2段階のスケールで増殖速度を測定し,増殖モデルのモデルパラメータ同定を実施した.最終的には,CFD+Lagrangeモデルによる真菌胞子の壁面沈着量(真菌胞子数)解析結果を入力条件として反応・拡散・走化性系の真菌増殖モデルを解析する一連の数値解析手法を提案し,浴室環境を想定した閉鎖空間内での真菌胞子の移流,拡散,沈着,増殖を連続して解析することで,微生物増殖リスクを評価するための基礎技術としての有効性を確認した. さらに,真菌胞子を始めとするバイオエアロゾルが気道内粘膜上皮に沈着した場合の増殖リスクを評価するために,Partition Coefficientを利用した気相-吸着相の変換モデルを提案し,人間や齧歯類,イヌ,サルを対象とした予備解析も実施した.
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