先進諸国の多くは、1980年代から、市場重視の住宅供給システムをつくってきた。この枠組みのなかで、持家セクターが拡大し、社会賃貸セクター向けの政策支援は縮小した。しかし、サブプライム・ローン破綻、リーマンショック、ユーロ危機など、2000年代末から続くグローバルな金融・経済危機によって、持家取得の推進は困難になった。その結果、住宅に関する公共政策の見直しが進み、“ポスト・クライシス”の住宅供給システムをどのように組み立てるのか、という問題の重要性が高まった。 この状況を念頭に置き、昨年度に引き続いて、ポスト・クライシスの住宅供給システムに関する比較分析をと理論検討を進め、多くの国がそれぞれの特徴をもつと同時に、類似した変化として、モーゲージ・ローンにもとづく持ち家セクターの拡張というプレ・クライシスのトレンドが持続しなくなったこと、人口高齢化を背景として、アウトライト持ち家が大幅に増大したこと、さらに、社会賃貸セクターの一貫した削減というプレ・クライシスの政策方針の見直しがはじまったこと、などの傾向をもつことを明らかにした。この点は、多数の国において、モーゲージと持ち家の市場を拡大し、それによって経済を刺激するという「民営化されたケインズ主義」の政策が限界に達したことを示している。 さらに、ポスト・クライシスの住宅事情の特徴の一つとして、住宅市場の階層化とそれにともなう富裕層の住宅投資市場の出現があげられる。この点をふまえ、日本の大都市を対象とし、高額住宅の取得者に対するウェブアンケートを実施した。その結果は、高額住宅取得者の年齢・家族型、所得・資産階層、購入動機、不動産保有実態などに多様性があることを示している。
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