従来、ロービジョン者への視環境の配慮が中心視の支援が主であったが、ロービジョン者の障害の程度や状況が様々で、有効な支援環境を整えることは困難であった。一方、周辺視は障害が及びにくい特性があり、周辺視を生かした情報支援環境が近年注目されている。その周辺視を空間計画の上で活用するためのデータや規準や測定法が求められている。そこで、本研究では、空間の形状を識別できる能力を「空間識力」と定義し、独自開発したロービジョン再現環境において、「空間の形状」および「照明」「色彩」の条件を系統的に再現し、各条件下における空間識力を測定した。さらに実験結果と実環境との比較から測定方法の有効性を検討した。 2014年度は空間識力の測定に用いるドーム型広視野スクリーン(既存設備)の高分解能化、及びロービジョン再現環境の提示に必要な画像処理プログラムの開発を行った。高分解能化にあたっては、プロジェクター部分を最新のレーザー光源型に入れ替えることにより、色収差を抑えつつ高コントラスト画像が提示できることを確認した。画像処理プログラムについては、二次元CGではなく、仮想空間を三次元 CGとして取り扱うことで、奥行き情報を保有させたままで処理させる方式とした。これにより同一プログラム上で、様々な段階のロービジョン視野を再現することが可能となった。 2015年度は空間識力の再現実験として、老人ホーム認知症フロアの改修計画を素材に「空間の形状」および「色彩」の条件を系統的に再現(現状、見通しの改善、床の色パターンの改善、目印の改善の4条件)して、それぞれの条件下における空間識力を測定した。空間識力の指標として「言葉の数」「経路探索時間」「チェックポイント誤差」「場所正答率」を定め、それぞれの計測を実施した。加えて、夜間大規模災害時の広域停電下の避難誘導に資する周辺視を利用した方式の可能性を検討した。
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