本研究課題は、17c半ばから18cにかけてヨーロッパで大流行し、現代中国においても「二重の意味での逆輸入」により目にすることの多い「中国的」様式、シノワズリへの嗜好に着目して、そのデザインを地域アイデンティティとの関係から考察することを目指している。 平成26年度は、ヨーロッパの文献もふまえた日本のシノワズリに関する文献をもとに、シノワズリの学術的な概念とその構成要素のつながりについて分析した。また、上海での現地調査により、地域の文脈におうじたシノワズリの文化的要素とそれらの空間表象・文化表象について整理した。 平成27年度は、現在の中国でみられる「シノワズリ的」なるものを明らかにすることを目標に、日本で刊行されている観光ガイドブックを対象とした文献調査を平成26年度と同様の方法によっておこなった。そして、現在の中国でみられる「創出された」シノワズリの概念・認識、つまり「シノワズリ的」なるものの概念・認識について考察した。また、それらと平成26年度に把握した「本来の」学術的な意味でのシノワズリの概念・認識との比較考察もおこなった。さらに、広州、香港・マカオにおける現地調査から、「シノワズリ的」なるものの要素による空間表象・文化表象の現況を現地にて確認し、それらに対するイメージの一端をインタヴュー調査により把握した。 平成28年度は、これまでの成果と現地調査で得られたデータをもとに、上海、広州、香港・マカオそれぞれにおける「シノワズリ的」なるものの空間表象・文化表象から、その概念整理をおこなった。上海、広州における「シノワズリ的」なるものについては、「ヨーロッパ的」な視点と「中国的」な視点の双方から整理した。香港・マカオにおいては、これらにくわえ、現地調査をもとに、「香港らしさ」、「マカオらしさ」、「イギリス的」なるもの、「ポルトガル的」なるものとの関係から整理した。
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