研究課題/領域番号 |
26630280
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
佐藤 滋 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60139516)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 皇帝陵 / ベトナム / 世界遺産 / 文化財保護 / 集落 / バッファーゾーン |
研究実績の概要 |
本研究は,世界遺産都市ベトナム・フエの歴代皇帝陵周辺地域において,文化財保護を目的とした再定住の対象者となっている集落住民が,自律して生活を営むことで,居住地と生活スタイルを選択することが可能になるような集落整備のモデルを,参与的研究とその結果の分析を通じて構築することを主たる目的とする.具体的には,1) 歴代皇帝陵集落が拡大してきた集落変遷プロセスを明らかにし,2) 集落住民の生活実態,集落全体における世帯分離と住宅需要の増加のメカニズムを解明し,居住地と生活スタイルを選択することが可能な循環居住のシナリオを作成する.3) そして,歴代皇帝陵周辺集落の定住化と歴史的建造物周辺の生態学的な環境の保全が,同時に成り立つような集落整備の手法について,簡易模型を用いたシミュレーションを行い,その可能性と課題を明らかにする. 初年度の平成26年度には,第一に,現地調査によって対象集落が現在に至るまでに定住を実現し,拡大してきた集落変遷プロセスを明らかにした.次に世界遺産指定地域のバッファゾーンで生活する居住者,および遺跡の敷地内部で生活する集落住民の生活史を聞き取り調査から記録し,集落住民の生活実態,世帯分離と住宅需要の増加のメカニズムを詳細に分析した.そして,上記で整理・分析された調査結果を居住地と生活スタイルを選択することが可能な循環居住のシナリオを作成した. 最終年度である平成27年度には,集落内の住宅建替および集落更新に関するシミュレーションを,住民および関連行政担当者との協働ワークショップを通じて実施する.集落内の住宅建替および集落更新を進めていく方法について,簡易模型を使って住民と意見交換しながらシミュレーションを行ない,最終的に歴史的造物周辺の生態学的な環境の保全を可能とする周辺集落の持続可能な整備手法として,現地政府に対して提案し,その可能性と課題を明らかにする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初設定していた研究計画においては,平成26年度のうちに,歴代皇帝陵周辺集落の集落住民の生活実態の調査を通じて世帯分離と住宅需要の増加のメカニズムを明らかにするための調査を実施し,その分析した結果を元に居住地と生活スタイルを選択することが可能な循環居住のシナリオを作成する予定であった. しかしながら実際には,前者の現地調査については行なったものの,想定よりも調査結果のデータベース化に時間を要し,後者のシナリオ作成については初年度中には完了させられなかった. 達成度を「やや遅れている」とした具体的な理由として,以下の二点をあげる. 1)当該年度は嘉隆帝陵という阮朝初代皇帝陵の周辺集落で調査を行なったが,集落史に関する歴史的な文献・資料が殆ど得られなかったため,集落の形態変容や住まい方の変化を全世帯への聞き取りから明らかにする研究方法に変更することとなった.そのため,調査結果の内容は充実した一方で,結果のデータベース化と分析作業に想定よりもはるかに多くの時間と労力を割く必要が生じ,前述の「居住地と生活スタイルを選択することが可能な循環居住のシナリオの作成」に大幅に遅れてとりかかることとなった. 2)当初は,阮朝初代~第4代の皇帝陵全ての周辺集落において調査・研究を行う予定でいたが,実際には嘉隆帝陵(初代)の周辺集落を主な研究対象とすることとなり,その他の3つの皇帝陵の周辺集落に関してはまだ準備段階にある.その点において,当初設定していた研究計画の達成度は低いと云える.一方で,嘉隆帝陵の周辺集落とは当該地域における課題や資源,地域ビジョンを共有するための参加型セミナーを開催することで合意していることから,当初の研究計画に比べて,地元の意見や要望,暮らしの知恵などをより具体的に計画に反映させ,より実現可能な形で地域開発のアイディアを検討することができるように研究を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
前年度で対象地を嘉隆帝陵へ限定した方法はそのまま踏襲し,より実現可能でまとまった成果を挙げられるように努めるものの,最終的には当該研究の成果をふまえた上で,他の3つの皇帝陵周辺集落においても適用できるような集落整備モデルの検討も行う. 具体的には,以下のスケジュール(案)と推進体制(案)にもとづいて研究を進める. 1.スケジュール まず,1)初年度の調査結果を整理したデータベースを活用し,居住地と生活スタイルを選択することが可能な循環居住のシナリオづくりを進める.次に,2)8月中旬までに集落内の住宅建替および集落更新に関するシミュレーションを行う準備を進める.そして,3)8月下旬に集落住民および自治体職員,さらには関連行政担当者が参加するセミナーを現地で開催し,集落内の住宅建替および集落更新を進めていく方法について,簡易模型を使って住民と意見交換しながらシミュレーションを行なう.最終的には,4)上記の参加型セミナーでもらったフィードバックを活かして,歴史的造物周辺の生態学的な環境の保全を可能とする周辺集落の持続可能な整備モデルを構築し,他の3つの皇帝陵周辺集落へのモデルの適用可能性と課題を考察する. 2.推進体制 平成27年度は前年度に引き続き,当該研究代表者の所属機関である早稲田大学が,現地のカウンターパートであるフエ遺跡保存センター(所長:ファン・タン・ハイ),およびトゥアティエン・フエ省計画研究院(所長:ダン・ミン・ナム)との協力体制を維持して,さらに地元の自治体(Huong Tho社人民委員会)と村の代表者(Dinh Mon村人民委員会,農民組合)とも協力しながら,上述のセミナーを通じた歴史的建造物周辺集落の持続可能な整備モデルの構築を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、阮朝初代~第4代の皇帝陵全ての周辺集落において調査・研究を行う予定でいたが、実際には嘉隆帝陵(初代)の周辺集落を主な研究対象とすることとなり、その他の3つの皇帝陵の周辺集落に関してはまだ準備段階にある。一方で、嘉隆帝陵の周辺集落とは当該地域における課題や資源、地域ビジョンを共有するための参加型セミナーを開催することで合意していることから、当初の研究計画に比べて、地元の意見や要望、暮らしの知恵などをより具体的かつ実現可能な形で、地域開発のアイディアを検討することができるように研究を進めている。このため、2015年3月に予定していたワークショップを8月に延期して3月は調査と地元調整のみを行った。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のように、本年度は8月に地元を含めたワークショップを行う予定であり、繰り越した予算と本年度の当初予算を含めて、本年度予算1265991円の内、その大部分の1021000円【国内126000円、外国895000円】をそのための旅費とすることにしている。その他、消耗品【65991円】、図書【24000円】、人件費・謝金【122000円】、その他【33000円】の使用計画とする。
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