本研究の目的は,世界遺産都市ベトナム・フエの歴代皇帝陵周辺地域において,文化財保護を目的として設定されたバッファゾーンに近接する集落の住民が自律的に住まうことで,居住地と生活スタイルを選択することが可能になるような集落整備のモデルを,住民参加のセミナーとその結果の分析を通じて構築することとした. 最終年度は,嘉隆帝陵周辺集落に限定して,住民および自治体の地域計画担当者,遺跡保存行政の担当者参加のセミナーを夏の約1週間にわたって現地で開催し,集落の環境改善のためのシナリオを検討した. このセミナーを通して,地域から環境改善に関するアイディアやその実現に向けて想定される課題等を収集・整理することができた.最終的には,集落のレガシーを守り次世代に引き継いでいくための住民代表らとの協議を通して地域憲章を作成した.この地域憲章は,1) 歴史資産の保全,2) 水を中心とした自然環境との調和,3) 集落の住環境改善,4) 地域振興のための新たな雇用の創出,5) 魅力の発信,6) コミュニティ強化という6項目からなり,集落の代表者のみならず,一般の住民たちにも分かりやすいようなシンプルな文言に調整され明文化された. 本研究では,歴代皇帝陵(主に嘉隆帝陵)の周辺集落において,住民参加のセミナーでの集落との対話と協議を通じて,祖先から受け継いできた土地とそこでの生産の重要性を改めて地域内で再確認し,将来に向けた問題解決や行動指針について合意形成を図ることできた.今後は,当該参与研究を通じて作成された地域憲章の内容をベースに,集落環境を実際に改善していくための具体的な計画を作成し,実践していくことが期待される.
|