研究課題/領域番号 |
26630290
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
阿部 英司 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70354222)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 準結晶 / 電子顕微鏡 / 結晶学 / 原子配列 / 複雑合金相 / マグネシウム合金 |
研究実績の概要 |
Mg-Al系では,Mg-60at%Al組成近傍において巨大な単位胞を有する立方晶結晶(原子数~1200個)が存在する.このMg-60at%Al合金を液体急冷法にて作成すると,稠密な回折ピークが複雑に配列する特異な構造を持つ相が生成されることを確認した.電子回折パターンの詳細な解析により,2回・3回・4回の回転対称軸を持つ立方対称性を持ちながら,回折ピークは準周期的に配列しており,それらは空間次元より多い6指数で過不足無く指数付けできることが判明した.この構造を高分解能電子顕微鏡により直接観察したところ,二つの長さスケールL,Sの準周期的配列が明瞭に確認され、それらの長さの比・数の比ともに約1.4であることが分かった.これらの特徴を持つ立方対称準周期結晶の構造モデルを高次元結晶法(6次元ダイヤモンド格子)に基づいて構築したところ、電子回折パターンが極めて高い精度で再現された.また,対応する巨大単位胞結晶の局所構造を基に構造モデルを構築し,立方対称を保ちながら準周期的な原子配列が可能であることを証明した.興味深い点は,本準周期構造を特徴付ける約1.4のスケール比が,切頂四面体のつながりで記述される巨大結晶局所構造中にすでに内包されていたことである.
本結果は,電子顕微鏡直接観察に基づき,通常の結晶対称性においても準周期構造が生成することを実証した初めての例となった.すなわち,非結晶学的回転対称性が存在しなくとも,高次元結晶学から理論的・数学的に導出される広義な準周期パターンが,原子系にて実際に生成することを示すものである.このことは,原子が物質を構築する際の原理原則に,周期性だけではなく準周期性そのものがより深い物理階層として存在する可能性を強く示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
電子顕微鏡直接観察により,回折実験のみではこれまでその実証・同定が困難であった通常対称を持つ準周期結晶を,極めて高い確度で実験検証することができた.さらに,具体的な構造モデルの構築まで達成することができた.
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今後の研究の推進方策 |
今回,新しい準周期構造が発見されたことで,準周期性の示す物性やその応用に新たな局面が現れる可能性がある.そのためには,急冷による準安定相としてではなく,熱力学的安定相としての立方対称準結晶の生成させて,バルク試料を実現することが重要となる.当初の予定に従い,Mg-Al系に第3元素を添加する合金探索により,安定相の形成を検討する.候補の元素としては,Mg-Al系準結晶関連巨大結晶として非常によく知られたMg32(Al, Zn)49結晶相(Bergman相)より類推し,Znを試みる.Zn量を少しずつ添加した際のMg-Al巨大結晶の構造変化を系統的に調べる.
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