研究実績の概要 |
準結晶が有する非結晶学的回転対称性は,準周期秩序を生成するための物理的起源を与えると考えられてきた。一方,フィボナッチ列に代表されるように,準周期秩序そのものは特異な回転対称性を必要としない。すなわち,数学的には通常結晶の対称性を持つ準周期秩序構造は可能であり,高次元結晶学の枠組みで記述できる。本研究では,昨年度の成果として,Mg-61at%Al組成における液体急冷凝固試料中に立方対称を示す準周期構造の形成を報告した。今年度は,局所原子配列を含めた詳細な構造モデルの構築することができた。構造モデルは3次元空間で2,3,4回回転軸を持つ立方対称であり,観察された電子回折パターンをよく再現した。また,準周期的に配列する回折ピークが,高次元結晶法に基づく6指数により矛盾無く指数付けができることを確認した。準周期原子配列をHAADF-STEMにより直接観察し,3回軸方向に準周期的に配列する2つの長さスケールL,S(L/S~1.4)が明瞭に観察され、その配列は6次元超立方格子を物理空間からtanθ~1.4だけ傾けた投影により得られる。L/S~1.4を与える二つのスケール長は、Mg-Al系巨大結晶(β-Mg2Al3,γ-Mg17Al12)中に見られる切頂四面体クラスターのネットワークによって生成されることを見いだし,これらクラスターネットワークの準周期配列により空間充填構造が実現されることが確認された。準周期立方晶の具体的な原子構造モデルが初めて構築されたことになる。
熱力学的に安定な準周期立方晶を探索するため,微量のZnを添加した種々のMg-Al-Zn合金を作成し,その構造を調べた。残念ながら,今回の探索組成範囲で熱力学的に安定な準周期立方晶の形成には至らなかった。しかし,微量Zn添加試料の急冷凝固合金中には正20面体準結晶が形成されることが見いだされ,準周期立方晶との構造類似性を強く示唆する結果を得た。
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