研究課題/領域番号 |
26630291
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
喜多 浩之 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00343145)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 界面磁気異方性 / 不揮発メモリ / 電界効果 / 強磁性体 / 酸素欠損 |
研究実績の概要 |
金属強磁性体薄膜と酸化物の界面にはたらく界面磁気異方性エネルギー(Kint)は,電界の印加によって変化する性質を示すが,申請者らは酸化物としてTiOxを用いた系でKintの一部が不揮発的に変調されるという現象を既に見出している。今年度はCoFeB/酸化物界面に対してその効果を最大化するための,酸化物薄膜の材料探索およびその形成手法の検討を行った。まず,既に不揮発的な動作を見出しているTiOxについて,種々の膜厚のTi金属薄膜の低温酸化した際のTi膜厚の影響,およびTi酸化処理後に意図的にTi金属を追加して酸素欠損を変えることの影響の調査を行った。その結果,これらの形成手法の違いは,電圧印加によるKintの不揮発的変化に顕著な効果を与えないことが判明した。これは,スタック形成後の~300℃アニールの際に進行する界面反応が界面近傍での酸素欠損を決定していて,堆積時の不定比性は決定的な役割を持たないと考えて説明できる。またTi膜厚による違いが現れないことは,不揮発的な変化は界面のごく近傍での酸素欠損に由来する現象であるというモデルと矛盾しない。 次に,TiOxに代えてCuOx,CoOxを界面への導入効果を検討したところ,TiOxを上回る特性は得られなかった。大きな不定比性を導入できる可能性を想定したCuOxでは,CoFeB薄膜との相互拡散が速く強磁性を維持させることが難しい。一方,CoOxではKintの低下が顕著となって最終的に電界による変調効果は期待できない。これらの検討結果を踏まえると,前述のCoFeB/TiOx系は,電圧印加によるKintの不揮発変化の実証系として比較的良好な特性を示していると言える。次年度はこれらの知見に基づいてメモリ動作の実証へと展開する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
界面磁気異方性の不揮発な変化に有効となる材料系の探索について,当初計画に基づいて進めてきた。ここまでの結果から特に新しく見出された材料系はなく,当初のTiOx系が最も扱いやすい系となっている。材料系が十分に最適化できたとは言えないものの,ここまでの結果に基づいて次年度の素子作製と実証へ移行する予定であり,全体の目的や計画に大きな修正は必要ないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
CoFeB表面へのCo酸化物層は不揮発性への寄与が小さいことが判明した一方,磁気異方性を劣化させる効果は顕著であるため,本研究の積層構造ではCoFeB層の表面酸化を最小化することが好ましい。このことはTiOx系材料の酸素欠損を制御する条件を選定する上での大きな制約であり,この点に十分な配慮をしながら今後の検討を進めることにする。
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