金属強磁性体薄膜と酸化物の界面にはたらく界面磁気異方性エネルギー(Kint)は,電界の印加によって制御が可能であることがわかっている。前年までに酸化物中の酸素空孔の増減や陽イオンの価数変化の電界による制御を使ってKintを変調させることを検討したが,十分な変調が得られないばかりか,そもそもKintの値が不十分となる大きな問題があった。そこで本年度は,以下の2つのアプローチによって成膜時の絶縁膜の化学状態や組成を制御してKintを増大させ,その結果として電界による変調の範囲を広げることを目指した。第一に,絶縁膜の金属/酸化物の比率を調整する方法である。強磁性CoFeBの成膜後に数Åの金属薄膜を挿入してから酸化物を堆積した。挿入する金属種がAlのときには効果は限定的であったのに対し,金属Zrを挿入した後にZrO2を堆積した系ではKintが増大,金属の挿入と共にKintの電界応答性が約2倍にまで増大した。これは電気陰性度の小さいZrが効果的に酸素を周囲から奪い,CoFeBと直接結合する酸素原子の密度を減少させるためと推測される。第二の方法は,絶縁層中の酸素の一部を電気陰性度の高いフッ素へ入れ替えることにより,絶縁膜がより強く強磁性体から電子を引き抜くような界面へと変える試みである。CoFeB上に数ÅのAlF3層を挿入した後にAl2O3層でキャップしたところ,少量のFの導入でKintを増大させる効果が顕著にみられた一方,Fが過剰となった場合は磁化の劣化が生じた。従ってFの導入量の最適化が必要である。電界の効果については,Al2O3だけを絶縁層とした場合に比べ,Kintの増大とともに大幅な電界応答性の向上がみられた。現在のところ,これらの応答の多くは揮発的であり,当初目的の不揮発的な動作のために課題は残ったものの,界面の組成や化学状態が電界応答性を変える可能性が明確となった。
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