本研究の目的は,申請者らのこれまでの成果を生かし,超高圧透過電子顕微鏡(UHVTEM)に付随する電子線エネルギー損失分光(EELS)において人工的にパターニングした磁性ドット(ビットパターンドメディア:BPM)の磁気シグナルを世界最高の空間分解能でマッピングすることである. このために、まず、パターン化されていない磁気薄膜として、MgO単結晶基板上にマグネトロンスパッタにより成膜されたMnGa薄膜について、TEM試料加工を現有の方法で試みたものの、電子プローブを走査できる良質なサンプル領域を確保できなかった。これについては、ほかのプロジェクトで導入中の新規の機械研磨法を適用することで解決を図りたい。 薄膜形態の試料が基板に強固に密着している場合、数百nmの試料領域で50nm以下の均一な厚さを確保する要件は我々の現行の技術ではまだ達成できていない。この要件は電子磁気円偏向二色性が要請するものである。電子磁気直線偏向二色性においては、そのシグナルの発生原因に回折波の干渉は関与しないため、厚みの要件は大きく緩和される。そこで、電子磁気直線偏向二色性において、有意なシグナルを比較的厚い試料(~60nm)で得られるか、検討した。酸化物フェリ磁性体において有意な電子磁気直線偏向二色性が確認された。 また、同じ酸化物試料において、イオンミリングによる薄片化を精密化したところ、明瞭な電子磁気円二色性シグナルが確認された。 以上のことから、新規導入の機械研磨法とうまく組み合わせることで、EELSにおける磁気シグナルを薄膜磁気記憶メディアにおいて獲得できる可能性が示唆された。
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