研究の最終年度である2年目は,分光の対象となる金属ナトリウムの供給方法について研究を進めた.当初は原子力機構(当時)との技術協力により,機構が国内で唯一保有する特殊な設備を用いてバルクの金属ナトリウムを酸化させずに真空紫外光を透過するフッ化マグネシウム結晶窓で挟み込み分光サンプルとするナトリウム供給方法を想定していた.しかし,先方の都合により,この方法で分光サンプルを準備することに時間的な制限が付けられた.そこで,真空紫外分光に耐えうる金属ナトリウムの新たな供給方法として,バルクナトリウムを真空中でレーザーアブレーションすることにより,その際に過渡的に生成されるナトリウム蒸気をサンプルとして用いる供給方法について検討を加えた. レーザー生成プラズマからの可視光の発光を分光光源として用いた(ナトリウム原子の数密度の時間的空間的発展を測定するためには可視域での分光で十分).このプラズマ発光と時間遅延を付けたもう一台のレーザーによりナトリウムをアブレーションし,可視域のD線の吸収に関して時間分解,空間分解分光を行った.アブレーションプルームの進展についてはcosシータで膨張するモデルを仮定したところ,実験結果とよい一致を示した.これによりナトリウム蒸気の時間的,空間的進展について定量的な知見を得ることができた.具体的にはナトリウムターゲット表面から1 mmにおいて遅延時刻1000 nsのとき,中性ナトリウムの数密度は10^17 cm-3程度の値となった.この値は真空紫外域での吸収分光を行う際のサンプル密度としても十分に高い値となった.
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