研究課題/領域番号 |
26630300
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
牧 英之 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (10339715)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノチューブ・フラーレン / 半導体物性 / 光物性 |
研究実績の概要 |
現在の半導体技術は、バンドギャップをエネルギー的・空間的に制御する“バンドエンジニアリング”により様々な機能素子が実現してきたが、既存のバンドエンジニアリングは、組成制御やドーピングなどのプロセス時で導入されるため、一旦デバイスを作製すると、外部から変調することは難しい。本研究では、次世代のバンドエンジニアリング材料として、カーボンナノチューブに注目し、MEMS技術を用いて一本のカーボンナノチューブへの歪印加素子を開発し、歪印加に同期したバンドギャップの高速変調という新たなバンドエンジニアリングの構築を行うことを目的とする。また本素子を用いて、電気的なバンドギャップ変調観測、バンドギャップ変調による波長可変発光素子、超小型分光器の開発を行うことを目指す。 これまでの研究で、MEMS技術を利用したカーボンナノチューブの歪印加素子の開発を行った。ここでは、微細加工技術により作製した片支持の梁構造を作製し、梁構造に対向して設けられた電極に電圧を印加することにより、静電的引力により梁構造が駆動し、反対側に設けられた架橋カーボンナノチューブに歪が印加されるという歪印加素子作製を試みた。その結果、駆動電極への電圧印加によって、梁構造が駆動していることを顕微鏡での観察で直接観測した。またこの歪印加素子によってカーボンナノチューブに歪を印加してフォトルミネッセンス測定を行った結果、バンドギャップの変調による波長可変発光を観測することに成功した。さらに、本素子においてカーボンナノチューブに通電可能であることを示した。また、光検出器開発を進め、これまでに微小なナノカーボン光検出器を用いて、光検出が可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度は、カーボンナノチューブへの歪印加を可能とするMEMSデバイス開発を進めた。歪印加可能な素子のデバイス構造設計を行い、その設計を基に半導体微細加工技術を用いて歪印加素子を実際に開発することに成功した。本素子では、片支持の梁構造とそれに対向する駆動電極に対して電圧を印可した際に、電極間の帯電による静電引力によって、片支持梁を駆動する。本素子を用いて歪印加の駆動を光学顕微鏡を用いて観測したところ、実際に電圧印加によって片支持梁が湾曲して駆動することを直接確認した。また、本素子にカーボンナノチューブを化学気相成長法により成長して、カーボンナノチューブに引っ張り歪を印加した。その結果、フォトルミネッセンス測定によって発光波長のシフトを観測し、歪印加によるバンドギャップ変化によって波長可変発光を得ることに成功した。さらに、次年度に予定している歪印加デバイスでのカーボンナノチューブに対する電気測定実験にも着手した。その結果、デバイス上で架橋しているカーボンナノチューブに対して通電することが可能であり、電気伝導測定を行うことに成功した。加えて、次年度に予定している分光器開発に関連し、光検出器測定系の構築に着手した。その結果、カーボンナノチューブと同様のナノカーボン受光素子において、光検出が可能な測定系の構築に成功した。以上のように、当初の平成26年度の研究計画を順調に達成するとともに、次年度に予定していた計画も順調に成果が得たことから、計画以上に研究が進展した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、MEMS技術により作製したカーボンナノチューブ歪印可素子により波長可変発光が得られることが明らかとなったことから、今後は高速の波長可変発光の観測をフォトンカウンティング法を用いて観測することを試みる。また、歪印加したカーボンナノチューブに対して電気測定を行い、単一電子輸送や電界効果トランジスタ特性を利用して、バンドギャップ変化の電気的測定を試みる。最終的には、金属から半導体への転移観測を目指す。また、機械的共振器の共振周波数測定やその光学特性観測も試みる。さらに、電流注入型発光素子への応用や光検出器への適用と分光器開発も進める。
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