研究課題/領域番号 |
26630310
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大槻 主税 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00243048)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ハイブリッド材料 / セラミックス / 生体材料 / ヒドロキシアパタイト / 擬似体液 |
研究実績の概要 |
人工骨は、生体内という特殊な環境で長期に利用される材料である。人工骨に、環境応答性が付与できれば、体内での環境の変化に応じた薬剤徐放や自己修復といった機能が獲得できる。しかし、人工骨に環境応答性を付与する技術は未開拓である。本研究課題は、生体内で反応するリン酸カルシウム系化合物を基材に用いて、これに酵素応答性分子を複合化することで、酵素の存在に対応してリン酸カルシウムの形成反応が制御される新規な人工骨用バイオマテリアルの創製を目的にする。酵素としては、アルカリフォスフォターゼ(ALP)を対象として取り扱う。 ALPは、リン酸エステル化合物の加水分解を進める酵素であり、その活性は体液よりも、高いpHの領域で発現する。本年度はまず、pHが中性域に近い体液模倣環境で活性が現れる条件を確かめた。次いでその条件に基づいて、異なる溶解度積と加水分解速度を持つリン酸エステルのカルシウム化合物を選び、酵素応答性の違いを対比した。その結果、フェニルリン酸カルシウムについて、体液模倣環境(擬似体液、SBF)中にALPが存在する場合に加水分解が進み、ヒドロキシアパタイトの生成が促進される条件があることが分かった。この条件を用いて、メチルリン酸カルシウム、エチルリン酸カルシウム、ブチルリン酸カルシウムについて、ALP存在下におけるヒドロキシアパタイト生成の違い擬似体液を用いて調べた。その結果、ヒドロキシアパタイトの形成は、主にリン酸エステルの加水分解速度の違いにより支配されることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、溶解性の高いリン酸カルシウムのセラミックスを基材に用いて、リン酸エステル分子をハイブリッド化することにより、酵素に応答する材料の開発を目指す。本年度は、まず体液模倣水溶液(擬似体液,SBF)中において、アルカリフォスフォターゼ(ALP)による加水分解反応の促進が起こる条件を確かめた。そのために、フェニルリン酸カルシウムを用いて、ALP共存下における材料の挙動を材料化学的に解析・評価した。キャラクタリゼーションについては、X線回折(XRD)、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光分析、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析、走査電子顕微鏡(SEM)などにより行った。その結果から、pH7付近であってもALPの存在下においてフェニルリン酸カルシウムからのヒドロキシアパタイトの生成反応はALPの存在により異なることを確かめた。次いで、ALPの存在下においけるヒドロキシアパタイト生成反応の違いの支配因子を明らかにするために、溶解度積と加水分解速度の異なる三種のリン酸エステルのカルシウム化合物(メチルリン酸カルシウム、エチルリン酸カルシウム、ブチルリン酸カルシウム)を用いて、擬似体液中における挙動の違いを対比した。その結果、ヒドロキシアパタイトへの転化反応は、ALPによるリン酸エステルの加水分解速度に主に支配されており、有機鎖の短いリン酸エステル化合物ほどALPの加水分解を受けやすく、ヒドロキシアパタイトの生成もALPの共存により顕著に現れることを明らかにした。これらの成果は概ね計画どおりに進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果により、体液を模倣した水溶液(擬似体液、SBF)を用いた条件でも周囲のALPの存在によって、ヒドロキシアパタイトへの生成反応が異なることが明らかになってきた。さらにその生成速度がリン酸エステル化合物の有機鎖の違いによっても異なることが明らかになった。今後は、異なるグリセロリン酸カルシウム、ラクトホスホン酸カルシウム等のリン酸エステルのカルシウム化合物についても挙動の違いを明らかにするともとに、リン酸エステルのカルシウム化合物を溶解性の高いリン酸カルシウム化合物の表面に複合化する条件を探究する。複合化を行う化合物として、α型リン酸三カルシウム(α-TCP)を主体に合成条件を検討することによって、研究を推進する。得られた化合物の複合構造の解析とともに、ALPを含有した擬似体液中での反応を調べ、酵素応答性を示すリン酸カルシウム系材料の合成条件を明らかにする。
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