人工骨は、生体内という特殊な環境で長期に利用される材料である。人工骨に、環境応答性が付与できれば、体内での環境の変化に応じた薬剤徐放や自己修復といった機能が獲得できる。しかし、人工骨に環境応答性を付与する技術は未開拓である。本研究課題は、生体内で反応するリン酸カルシウム系化合物を基材に用いて、これに酵素応答性分子を複合化したハイブリッド材料とすることで、酵素の存在に対応してリン酸カルシウムの形成反応が制御される新規な人工骨用バイオマテリアルの創製を目的にした。酵素としては、アルカリフォスフォターゼ(ALP)を対象として取り扱った。 ALPは、リン酸エステル化合物の加水分解を進める酵素であり、その活性は体液よりも高いpHで至適となる。本研究の実施により、フェルニルリン酸カルシウムが中性域に近いpHの体液模倣環境(擬似体液、SBF)であっても、ALPが存在するとヒドロキシアパタイト(HAp)生成の促進が起こることを明らかにした。次いでこの条件に基づき、異なる溶解度積と加水分解速度を持つリン酸エステルのカルシウム化合物からのHAp生成についてALPを添加したSBFを用いて調べた。カルシウム化合物として、メチルリン酸カルシウム、エチルリン酸カルシウム、ブチルリン酸カルシウムを選び、SBFへのALPの添加がHAp生成に与える影響を調べた。その結果、HApの生成は、主にリン酸エステルの加水分解速度の違いにより支配されることを明らかにした。さらに、α-リン酸三カルシウムをリン酸エステル溶液で処理し、表面を有機修飾したリン酸エステルカルシウム化合物とすることによって、HApへの転化挙動がALPの存在に応答する生体吸収性セラミックスの作製に成功した。
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