研究課題/領域番号 |
26630311
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中村 篤智 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20419675)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 転位 / 電気伝導 / 双結晶 / 粒界 |
研究実績の概要 |
【目的】転位は,結晶中の原子配列の連続性が局所的に乱れた線状欠陥であり,溶質元素の偏析,転位に沿った高速拡散(パイプ拡散),バンド構造変化などの現象を引き起こすことが知られている.転位に沿ったパイプ拡散に注目すると,転位が多数存在するイオン伝導体においてはイオン伝導率が向上することが報告されている.しかしながら,転位1本当たりのイオン伝導性については,転位の配置制御の困難さのため,これまで研究がなされていなかった.そこで,本研究では,転位1本のイオン伝導性の評価を行うことを目的として,小角粒界を有する酸化物双結晶の作製を行い,転位のイオン伝導性評価を狙う. 【小角粒界を有する酸化物双結晶の作製】本研究では、イオン伝導体として知られるジルコニア,リチウムイオン伝導を起こす可能性があるリチウムナイオベート(LN)の双結晶作製する.現在のところ、小傾角粒界および小ねじり粒界を有する,リチウムナイオベート双結晶作製に成功している. 【透過型電子顕微鏡法(TEM)による転位構造の観察】小角粒界を有する双結晶を作製した場合,設計通りに所定の転位が界面に形成されているか否かを確認する必要がある.TEM試料作製に当たっては,通常のイオンミリング装置を利用する.ナノプラットフォーム(東大)のTEM装置を利用して、小角粒界の原子構造解析を行った.その結果,ほとんどの場合において,小角粒界による転位列が形成されていたが,一部第2相を形成している領域も見つかっている. 【マクロな電気伝導性の評価】半導体パラメーターアナライザーを用いて,室温下にて,マクロな電気伝導性評価を行った.その結果,一部の小角粒界において粒界電気伝導性が発現しうることが明らかとなった.また,本研究を通して,小角粒界を用いて転位物性を評価する手法が有効であることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【小角粒界を有する酸化物双結晶の作製に成功】現在までに、リチウムイオン伝導を起こす可能性があるリチウムナイオベートの双結晶作製に成功した.双結晶試料が作製できると,イオン伝導性評価用の試料の作製が可能となる.これまでに,小傾角粒界および小ねじり粒界を有する双結晶だけでなく,リチウムナイオベートの極性に平行および垂直なバーガースベクトルの転位列を持つ小傾角粒界の作製に成功している. 【TEMおよびSTEMによる転位構造の観察に成功】小角粒界を有する双結晶を作製した場合,所定の転位が形成されているか否かを確認する必要がある.そこで,ナノプラットフォーム(東大)の装置を利用して、小角粒界の原子構造解析を試みた.その結果,LNにおいて1本の転位が2個もしくは3個以上の部分転位へと複雑な分解構造を有することが明らかとなった.一方で,LNではほとんどの場合において転位が形成されていたが,一部第2相を形成している領域も見つかっている.この第2相は母相よりもバンドギャップが広く,より絶縁度合いが高いと見込まれる. 【マクロな電気伝導性の評価を開始】半導体パラメーターアナライザーを用いて,室温下にて,マクロな電気伝導性評価を行った.その結果,リチウムナイオベートの一部の小角粒界において粒界電気伝導性が発現しうることを発見した.主に,設計上の転位のバーガースベクトルと強誘電分極の方向が平行であるときに,電気伝導が認められた.今後,このような現象についてより詳しく調査する必要がある.一方で,局所の電気伝導性が電子によるものかイオンによるものであるかについては,今後の課題である. 以上を通して,転位1本の物性を評価するにあたって,小角粒界を有する双結晶を作製するという手法が極めて有効であることが明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
前年度から引き続き,所定の小角粒界を有する試料の作製と通常の電気伝導特性評価装置を用いた転位の電気伝導特性測定を行う.これに加えて,以下の実験を新たに行う. 【原子間力顕微鏡(AFM)を用いた局所電気伝導特性の測定】AFMを用いて転位近傍の局所の電気伝導性をナノスケールで測定する.AFMにおいて導電性カンチレバーを用いて電圧を印加すると,カンチレバーを通した貫通電流を測定可能となる.この測定方法においては,局所の導電性変化を検出可能となるため,バルクと転位の電気伝導性に差が小さい場合も電気伝導性の変化を検出できる. 【雰囲気炉中での熱処理による転位の局所構造の制御】転位はコア構造および周囲のひずみ場により転位に沿った拡散速度が速い.したがって,周期的転位列を有する小角粒界に対して水素を含む還元雰囲気炉中で熱処理を行うと,酸化物中の転位近傍の酸素が優先的に抜けると考えられる.そこで,小角粒界を有する酸化物双結晶に対して還元熱処理を行い,転位中心部の局所構造を変化させる. 本研究で使用する材料のリチウムナイオベートの転位に対して,このような熱処理を施した場合,結晶中に酸素欠陥が形成される.このとき,局所にリチウムイオン伝導性を誘起できると期待される.また,酸素イオン伝導体のジルコニアに対して同様の熱処理を施すと,酸素が抜けることで酸素空孔が形成されるためイオン伝導性の向上が期待できる. 以上を通して,転位のイオン伝導性を評価することで,転位に沿ったイオン伝導特性を直接的に測定する方法を実証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
双結晶作製過程において,計上していた消耗品が想定以上に寿命が長く,消耗品交換間隔が短くなった.そのため,消耗品の購入費用が少額で済んだ.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額を試料購入に割り当てることで,より多くの実験を可能とするとともに,より高い成果が得られるよう配慮する.
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