研究課題/領域番号 |
26630326
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮島 達也 独立行政法人産業技術総合研究所, サステナブルマテリアル研究部門, 主任研究員 (10358129)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノマイクロ構造解析・評価・試験法 / インデンテーション / 力学物性 / 圧子 / 押し込み試験 |
研究実績の概要 |
従来の計装化インデンテーション法は試料表面と圧子との接触面積を直接計測することができないため、多くの仮定を含む弾性解析式を用いて実測可能な押し込み深さから近似的に接触面積を演算してきた。しかしながら、弾性解析式は圧子押し込みの際に発生するパイルアップ(盛り上がり表面変形)に対応できないため解析結果には大きな誤差が含まれる。一方、顕微インデンテーション法はダイヤモンド圧子が有する光透過性を活用し接触面積を光学的にその場計測できるため、パイルアップ等が発生する材料系においても厳密な定量ができる。ただし、光の波長が測長分解能を決定するため、評価対象がミクロ領域以上に限定されるという課題が残されている。本研究はこれまで剛体として扱われてきた圧子に計測機能を持たせた多機能型圧子(プローブ)を新たに開発することにより、この問題を克服することを目的としている。 本年度は開発全体の最初期段階にあたり、有限要素法(FEM)を用いた数値シミュレーションにより研究目的に適したプローブを効率良く探索することを目指した。プローブの表面形状としては球面を持つ鈍角型圧子と円錐形の鋭角型圧子を選択し、様々な形状・比率のプローブをCAD(NetGen)を用いてモデル化した。接触の解析は大規模有限要素法構造解析ソルバ(FrotISTR)により静的非線形解析を実行した。数値シミュレーションの結果はポストプロセッサ(ParaView)により数値化し各種特性値の分布を得た。プローブを試料表面に接触させると試料表面が弾塑性変形すると同時にプローブ自体も弾性変形すること、さらに、プローブの背面変形分布(BDP: Back-face Displacement Profile)は試料特性を反映していることなどを見出した。この結果は、試料の力学特性を接触状態にあるプローブの変形挙動を通してその場計測可能なことを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
有限要素法を用いた数値シミュレーションによりプローブ自体が弾性変形する挙動のうち背面変形分布(BDP: Back-face Displacement Profile)は接触の負荷除荷過程のその場計測が可能なパラメータであること、さらに、接触の相手である試料表面の力学特性を転写していることを見出した。従来の光学式顕微インデンテーション法よりも極微小領域における力学特性をその場評価できる可能性のあることを理論的に示すことはできた。しかし、プローブを計測精度の高い形状に最適設計するところまでは至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
プローブの構造要素としてダイヤモンドライクカーボン(DLC)を選択し数値シミュレーションにより設計したミクロサイズのDLCプローブを試作する。DLCの特徴は、アモルファスであるために表面が極めて平滑であり均一に弾性変形すること、線形弾性領域が広く高強度、高硬度、耐摩耗性に優れること、任意の特性を持つDLCを低温で合成する技術が既に確立していることなど、本研究の目的に適した材料と言える。さらに、プローブの背面変位分布(BDP: Back-face Displacement Profile)の精密計測にはナノ領域で高い分解能を有する汎用走査型トンネル顕微鏡(STM)を利用する。顕微鏡の探針とプローブ背面をカップリングさせて触覚型顕微インデンターのプロトタイプを試作する。さらに、機械的特性が既知のモデル材料に対して接触試験を実施し、ミクロからナノ領域におけるその場定量機能について開発装置の基本性能を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は構造解析用モデリングソフトウェアの購入を予定していたが、無償で利用出来るオープンソースCAEの中に充分な性能と機能を有するアプリケーションがあったため購入費用がゼロとなった。さらに、数値シミュレーションの全体(モデル化、解析実行、数値化)を既設の汎用PC上で動作させることができたため、スーパーコンピュータなどの利用費用も掛からなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度(研究2年目)には100万円を超える備品(走査型トンネル顕微鏡(STM))の購入を計画している。また、研究を加速させるため数値シミュレーションや検証実験を補佐する研究補助員の雇用費に充てる予定である。
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