押し込み試験用微小圧子に計測機能を付与した新しい多機能型圧子(触覚プローブ)を開発することにより、従来の押し込み深さ計測式インデンテーション法における致命的な問題である接触面積問題の解決を試みた。多機能型圧子は新しい概念であり、ダイヤモンド・サファイア等の単結晶セラミックスが有する機械的特性(高剛性、耐摩耗性)と光学的特性(透光性)とを協働させ、接触面積を光学的に定量計測する技術を確立し、力学物性評価法としての優位性・有用性を実証してきた。しかしながら、可視光による面積計測には測長限界がミクロ領域であるという課題が残されている。そこで、多機能型圧子の新たな原理としてヒトの指の触覚機能を模倣した触覚プローブの開発を目指した。 触覚プローブと試験体表面との接触で発生する背面変位分布(BDP: Back-face Displacement Profile)がセンサ機能として有用であることを見出した。有限要素法(大規模構造解析ソルバ(FrotISTR))を用いた数値解析(静的非線形解析)により、中実な半球体および円錐体をプローブとした場合を検証した。基本となる半球体(または円錐体)の半径を一定値とした条件下で、高さや試験体との弾性率比を変化させてプローブ背面に発生する応力・歪み、変位分布を数値解析し、中空な球殻構造体の場合と同様、背面変位分布は試験体の力学特性に敏感であること、すなわち、背面変位分布が触覚パラメータとして有用であることを明らかにした。さらに、弾性基板上に形成した中実な突起物(球面)をプローブとしたミクロ領域でのモデル実験を実施した。弾性率を異にする各種モデル材表面に接触させた背面変位分布を高精度レーザ変位計(最小表示:10nm)によりスキャンすることで背面変位分布を精密に計測した。このモデル実験により、球面中実プローブが触覚機能を発現することを実験的に検証できた。
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