研究課題/領域番号 |
26630327
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉見 享祐 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80230803)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 表面処理 / フラーレン / 浸炭 |
研究実績の概要 |
これまで、フラーレンを使ったSUS316Lオーステナイトステンレス鋼に対する低温固体浸炭法では、炭素源としてC60単体のみでしか確認されていなかった。本研究では、C60とC70からなる混合フラーレンでも、SUS316L鋼に対して良好な浸炭能を有することを世界で初めて見出した。 混合フラーレンを使用した場合、500°Cで100時間の浸炭熱処理にて表面硬さが最も高くなり、この条件はC60単体を使用した場合と同じであった。しかし得られた最高表面硬さの値は、C60単体の場合が約950Hvであったのに対して、混合フラーレンの場合には約1150Hvまで上昇しており、混合フラーレンの方がより優れた表面改質効果があることが判った。 一方、SUS316L鋼表面からの断面硬さ曲線を利用して浸炭層厚さを見積もったところおおよそ0.06 mm以下であり、このこともC60単体を炭素源とした場合と同じであった。そこでこの断面硬さ曲線を利用して500°CにおけるSUS316L鋼中の炭素の拡散係数を見積もったところ、過去に報告された値のおよそ1/10程度の結果となった。さらに得られた拡散係数を使って炭素濃度プロファイルシミュレーションを行い、他の浸炭熱処理条件で得られた断面硬さ曲線との比較を行ったところ、いずれの熱処理条件においてもシミュレーション結果と実験結果に良い一致が見られた。 このことから、本研究で求めたSUS316L鋼中の炭素の拡散係数は非常に信頼性の高いものであることが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、フラーレン分子が原子状に分解する確率を解析し明らかにするという点において、混合フラーレンを使った浸炭実験によって一定の成果が得られた。 しかし、模擬合金を選定するにあたって、熱力学データベースに基づいた計算状態図(ThermoCalc)を使いつつ炭素の拡散係数も加味しながらスクリーニングを行おうとしたところ、【研究実績の概要】で述べたように炭素の拡散係数が従来のものに比べて1桁近く小さいという研究成果が得られたため、それらを含めた検討が必要となり時間を費やすこととなった。したがって、従来のSUS316Lを使用した実験までは終了することができたが、模擬合金を使った実験には着手することができなかった。 また本年度、浸炭実験のための真空熱処理炉が年度の途中で不調となり、その補修にも時間を要することとなった。しかし、ThermoCalcの問題、真空熱処理炉の問題いずれも解決することができ、現在研究実施計画に沿って研究を推進することができていることから、今後期待どおりの研究成果が得られるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では、昨年度から検討を進めてきたThermoCalcによる熱力学計算と計算状態図、さらに炭素の拡散係数を加味した徹底的なスクリーニングの結果に基づいて模擬合金を自ら作製し、高真空中で浸炭実験を実施していく。 浸炭効果に関しては、表面硬さ、表面近傍のTEM観察や格子定数測定、断面におけるミクロ組織観察やナノインデンテーションによる硬さプロファイルの取得などを進めていく。自作の模擬合金に対して、本年度と同様炭素濃度プロファイルを決定し、フィックの第2法則に基づいた炭素の拡散挙動の解析を行っていく。 さらに、表面仕上げのレベルを変化させることによって表面粗さを変化させ、フラーレンの分解反応速度を検討する。この検討によって、フラーレン分子が原子状に分解する単位面積あたりの分解確率を考察し、模擬合金表面上でのフラーレンの直接固体反応メカニズムの検討を進めていく。
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