研究課題/領域番号 |
26630329
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
西方 篤 東京工業大学, 理工学研究科「工学系」, 教授 (90180588)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 大気腐食 / 電気化学インピーダンス |
研究実績の概要 |
2枚の炭素鋼板を平行にエポキシ樹脂に埋め込んだ2電極タイプのセルを用い、水膜下での炭素鋼の電気化学インピーダンス(EIS)を測定し、そのEIS特性が伝送線回路モデルにより説明できることを明らかにした。厚さ5μm程度までの水膜下でのEIS測定が可能であり、電流が2電極間の近傍に集中しても伝送線回路型等価回路にカーブフィッティングすることにより正確な電荷移動抵抗を決定できることをはじめて明らかにした。電荷移動抵抗の逆数は腐食速度に比例することが理論的、実験的にも証明されていることから、極めて薄い水膜下(現時点で5μm程度まで)での大気腐食速度をEIS法により測定可能になった。実際に、炭素鋼の初期の腐食速度を異なる厚さの水膜下で測定した結果、大気腐食速度は、水膜厚さ数10μm程度で最大値数mA/cm2を示すことを明らかにした。 一方、長期間(1~2年間)実大気環境に暴露され厚い錆により覆われた耐候性鋼のEIS特性を実験室の温湿度の制御可能なチャンバー中で測定した結果、容量性成分が異常に大きくなることがわかった。これにより、厚い錆に覆われた低合金鋼(炭素鋼、耐候性鋼など)の場合、1mHz程度の低周波数で電荷移動抵抗を測定するのは困難である。しかし、全周波数でのインピーダンスが相対湿度の上昇ともに減少することを明らかにし、大気腐食のモニタリング法として可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度に薄膜電解液下での電気化学測定法を確立できたことから当初の計画以上の達成度である。また、EIS法と腐食減量から求めた平均の腐食速度との間に高い相関があることを証明できた。しかしながら、瞬間の腐食速度とEIS法により得られた腐食速度の相関についてはまだ十分検証がなされていない。これは当初予定していた抵抗法(金属材料の腐食肉厚減少による材料自体の抵抗変化による腐食速度の測定)により瞬間の腐食速度を評価することが困難であったためである。ただし、薄膜電解液下において不均一な電流条件でも、伝送線回路モデルを適用することにより、正確な電荷移動抵抗を評価できるシステムができたことにより、瞬間の腐食速度も腐食初期の実験室レベルでは測定可能になったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後、厚い錆に覆われた低合金鋼のEIS特性(等価回路に含まれる回路素子の物理的意味)を明らかにし、長期暴露された低合金鋼の腐食のモニタリングの可能性について詳細に検討する。また、銀、銅、ニッケル、亜鉛、アルミニウムなどの各種金属の大気腐食のモニタリングをEIS法により行い、これら金属の腐食モニタリングの可能性についても検討する。また、それらの大気腐食挙動の違いについても明らかにする。これらの金属により作製したプローブ電極は、平成27年3月から銚子の日本ウエザリングテストセンターで暴露を開始している。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、実大気環境(日本ウエザリングテストセンター銚子)で各種金属の電気化学インピーダンス法による大気腐食モニタリング実験を実施中である。約1年が経過し、たいへん興味深い結果が得られているので、これらのモニタリングをあと1年延長して実施する。同時に、これから新規に試験片を暴露し、暴露時間の異なる試験片も作製し、これらを回収し、実験室で電気化学インピーダンスを計測することにより、腐食生成物に覆われた金属の薄膜下でのインピーダンス特性を検討するため次年度に使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
以下の予算が発生する。(1)大気腐食速度モニタリング用プローブ電極(試験片)の作製費(2)日本ウエザリングテストセンターでの暴露に関する諸経費(3)交通費
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