研究課題/領域番号 |
26630337
|
研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
岩田 晋弥 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (10642382)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 電気トリー / X線CT / ポリマーコンポジット / 絶縁破壊 |
研究実績の概要 |
本研究は、高分子コンポジット材料を対象とし、電気トリーの発生原理の解明と進展制御を目的としている。平成26年度にマイクロX線CTによる電気トリーの3次元的な構造観察とDielectric breakdown modelに基づく描画シミュレーションを実施した。平成27年度は主に以下の項目を実施した。[1]平成26年度までに得られた実験・解析の結果をまとめ、国際学会(IEEE International Conference on the Properties and Applications of Dielectric Materials, ICPADM2015)において口頭発表を行った。また、大阪府立産業技術総合研究所-研究所報告において、技術論文として報告した。[2] エポキシ樹脂に対する湿度処理が電気トリー進展に与える影響について検証を行った。X線CT観察より、湿度処理によって一定時間内に成長するトリーが長くなり、材料の劣化が促進していることが示された。また、X線CT観察を円滑に進めるための造影剤の選定を行い、トリー内への浸漬方法についても検証した。[3]Discharge-Avalancheモデルに基づき、電気トリー進展時間の解析を行った。この中で、材料のイオン化エネルギー(ポテンシャル)が果たす役割に着目し、量子化学計算と組み合わせることで、コンポジット材料におけるトリーの進展抑制について検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、おおむね順調に進展している。具体的な理由は以下のとおりである。[1] X線CTによる電気トリーの構造観察と描画シミュレーションの技術が確立し、実験がスムーズに進行している。無機ナノフィラー/エポキシコンポジットの作製において、機械的な撹拌、超音波、界面活性剤や分散剤の利用により、フィラー分散状態をある程度制御できるようになった。分散性の評価には、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法、ラマン散乱分光法を用いている。さらに、より鮮明なX線CT画像を得るために、電気トリー内部への造影剤の注入を検討した。その結果、ヨード系液体と真空処理が有効であることが明らかとなり、これまで以上に鮮明な画像を得ることに成功した。[2]国際学会発表での質疑応答と意見交換がきっかけとなり、これまでの確率論的なトリー進展モデルに加え、決定論に基づくモデルの研究に着手した。これによって、材料物性とトリー進展をこれまで以上に密接に結びつけて議論できるようになった。[3]トリー抑制材料の設計指針の確立を目的として量子化学計算を導入した。イオン化エネルギーを計算し、Discharge-Avalancheモデルと組み合わせることで、無機/有機コンポジットにおけるトリー進展時間を議論できるようになった。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、電気トリー進展を分子サイズからマイクロメートルオーダーの範囲で議論ができるようになりつつある。今後は、無機/有機コンポジットの結合状態や界面状態に着目し、電荷蓄積とトリー進展の観点から研究を進める。具体的には、以下の内容を計画している。[1]分子動力学シミュレーションおよび量子化学計算を用い、無機/有機界面の状態をモデル化し、電子状態やトラップ準位の解析を行う。特に、パルス静電応力法による実験結果と比較することで、材料固有の電荷蓄積状態を明らかにする。[2]これまでは、主にナノシリカをフィラーとして用いてきたが、上記のシミュレーション手法を用い、無機ナノフィラー/有機コンポジット材料を提案する。[3]樹脂内部の異方的な構造や規則的な空隙によって、同一材料においても絶縁性(耐トリー性)が異なると考えられる。異方的な積層構造試料を作製し、材料の構造とトリー進展について破壊力学的な観点から考察を進める。
|