研究実績の概要 |
材料・構造物の安全と安心のため、閉じたき裂を評価できる非線形超音波法が期待されている。一方、遠隔からの非破壊検査にはパルスレーザで発生した超音波を用いるレーザ超音波法が有用であるが、非線形超音波は実現していない。そこで、振幅差分を用いた非線形レーザ超音波法を定式化し、その可能性を検証する。 最初に定式化を行った。すなわち、一定出力のレーザパルスを繰り返し照射して、被験体上の複数点で受信したレーザ干渉計波形のフィルタ出力を用いて、シフト加算を行って映像を形成する。次に送信レーザのパルスエネルギーをa倍した場合の映像から元の映像のa倍を引くことで、線形応答の映像を消去し、き裂の開閉振動による非線形超音波映像を抽出する。 次に、研究代表者らが提案した減衰2重節点モデル(山中ら:Applied Physics Express, 4, (2011),076601)を用いて、10MPaの閉口応力で閉じた縦き裂とボイドを近接して配置して、シミュレーションを行った。音源から1 mm伝搬した時の変位振幅が100 nmと設定した結果、振幅差分法によりき裂をボイドの映像と独立に映像化できた。 さらに、送信レーザのパルスエネルギーが100mJのレーザ超音波装置を用いて、シミュレーションと同じプロセスで推定した通りの信号対雑音比で、ボイドの映像化を行うことができた。一方、パルスエネルギーが50 mJ以上あれば、100MPa程度の応力が必要な薄膜の剥離が可能である(荒井等;計算数理工学論文集、9(2009)No. 05-091211.])。従って本装置のパルスエネルギーはこの2倍あるため、シミュレーションと同様にき裂を開口して映像化できると推定される。 以上の理論及び実験結果から、材料の初期損傷と閉じたき裂の計測評価を遠隔から行える非線形レーザ超音波法の可能性が検証でき、本研究の目的が達成された。
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